第28話 マンネの”OLDBOY”
ウチは囚人や。
…小学生の頃、イトコと地下鉄の中で遊んでいたら突然拉致された。
後で”スカウト”ゆう言葉を知ったけど、当時のウチにとってはユーカイ以外の何ものでもなかったんや。
連れて行かれたのは”練習場”ゆうところやった。つまり牢屋や。
練習場ではレッスンという名の強制労働を強いられた。
囚人仲間はたくさんいたけど、毎年半分ぐらいいなくなって、新顔に変わった。
2年前。ウチも含めていなくならないで何年もずっといる囚人(練習生と呼ばれていた)は、集められて同じ部屋に詰め込まれた。
それからしょっちゅう外に連れて行かれて、歌ったり踊ったり笑ったりさせられる。
意味がわからん。ウチは人前に出るのがホンマに苦手やねん。
これやったら牢屋の中におった方がナンボもマシやった。
ウチのねえさん…
ちっちゃくて子供みたいな顔してるくせに、妙に威圧感のある奴。
一日中涅槃像みたいにゴロゴロしてる奴。
目の前にあるものはなんでも食う奴。
みんな囚人や。
…最近ネットでおもろいサイトを見つけた。
身の回りのもんで簡単に毒ガスを作ったり、毒草を育てたりする方法が書いてある。
ウチと同じような境遇の人間が盛んに情報交換してる。
最近はウチもすっかり常連や。
ガスにしようか草にしようか、考えてると楽しくなる。気が晴れるゆうんかな。
いずれどっちか手に入れて、囚人仲間に使ってみよう。
囚人どもが息をしなくなったん確かめたら、ここを出て行くんや。
ウチをこんな目にあわせた奴ら、ひとりひとりに復讐してやる。
それまでの辛抱やから囚人どもにアゴでこき使われてても辛くない。
ガスか?
草か?
刃物もええなぁ…
テヨン「なんやノド渇いたな。誰か酒買うて来いや」
ソヒョン「ウチ行ってくるわ。チャミスルでええ?」
テヨン「あ…、じ、自分はええわ。スヨン、行って来ぃ」
スヨン「なんでウチが…、い、いや、うん、行て来る行て来る」
ジェシカ「ウ、ウチも行くわ。ウチ別に涅槃像ちゃうねんから、たまにはお使い行くで」
ソニ「イ・スマンの姪でも何でもない赤の他人のウチも行くで」
ヒョヨン「チュ、チュヒョン、あ、あんたなんか欲しいもんない? 買うて来たるで」
ソヒョン「おねえにお使い頼んだら悪いわ」
ヒョヨン「気にせんでええて。なんでもゆうてえな」
ソヒョン「ほんならウチ、餃子が食べたいわ」
スヨン「買うて来る買うて来る、途中でつまみ食いとかせえへんで。どこの餃子がええの?」
ソヒョン「そら勿論”紫青龍”の餃子に決まってるがな。ひっひっひっ」
全員「ぞーっ!」
AD「そろそろ隠しカメラのテープ終わりまっせ」
PD「充分やろ。ええ画撮れたで」
AD「マンネの日記をさりげなく目につくところに放置しておく作戦大当たりでしたね、監督」
PD「当たり前や、ワシら恐怖映画製作所スタッフをなめたらあかん。
打ち切りになったゆう偽情報を流して、毒にも薬にもならん別企画に変更してみせたが、
どっこい裏ではリアル恐怖映画製作所が進行中とゆう訳や」
AD「怖い、これマジ怖いっすよ。まじドッキリやから放映されたときは大評判になりますぜ。
それにしても虫も殺せなさそうなマンネが、よくあんな怖い文章書いて協力してくれましたね」
PD「なんや自分聞いてないんか? あれは本物のマンネの日記や」
AD「アンネの日記?」
PD「マ・ン・ネ・の! ウチの作家が偶然手に入れたんやけど、マンネは普段からあんな事を日記に書いとるんや。
つまりマンネもこのドッキリは知らへんのや」
AD「それってマジ怖すぎ。シャレにならんのと違います?」
PD「視聴率の前にはすべてが正当化されるんや!」
…最近ウチの日記がときどき見当たらんようなって、おかしなところから見つかる。
誰かがいたずらしとるんや。
まぁええ。誰のせいか見当はついとるし。
とりあえずそいつらにウチが育てた草を食わしてみよう。
餃子に混ぜて差し入れしたら疑いもせんと食べるやろ。ひひ。
おことわり:この物語はフィクションです。
※『OLDBOY』は同名の日本のマンガを原作とした韓国映画で、2004年カンヌ映画祭グランプリを受賞した。
謎に満ち観客をグイグイと引きつけるシナリオ、極めてテンションの高い演出、計算されつくした映像、
そしてなにより演技にすべてを捧げた出演者のプロ意識…この作品は韓国映画のひとつの頂点である。
『OLDBOY』のトレーラー。地味。
平凡なサラリーマンのオ・デスは、ある晩理由もわからず何者かに拉致され、独房に監禁される。
独房では被害を与えられることは一切ないが、食事はなぜか餃子のみである。
テレビを通じて外界の情報を得ることが出来るし、月に一度は(眠っている間に)散髪と爪切りもやってくれる。
そのテレビを通じてデスは自分の妻が何者かに殺され、容疑が自分にかけられていることを知る。
誰が何のためにこんな事を仕組んだのか? 訳がわからないまま常軌を逸していくデス。
常に監視され自殺することも許されないデスは、いつしか見えざる犯人への復讐心だけで生きるようになる。
そして15年、ある日突然デスは解放される。必死に手がかりをかき集め、犯人を探り出そうとするデス。
先の読めないストーリーもさることながら、小太りの駄目サラリーマンから狂気に駆られた復讐者へ変貌していく
チェ・ミンシクの演技には感服するしかない。そのために15キロぐらい太ったそうだ(撮影は逆の順番で行われた)。
他にもタコを生きたまま食いちぎる(これはホントにやってる)、自分の舌をハサミでちょん切る(と言う演技)など
思う存分役者バカさを披露してくれている。
現代韓国においてソン・ガンホと並び称せられる名優である。
そのチェ・ミンシクに冒頭からビルの屋上でネクタイを掴まれているおっさん(上のテレーラーでも最初に出てくる)は
オ・グォンロクと言う俳優で、パク・チャヌク監督作品には必ず出演する名脇役である。
ドラマ『太王四神記』では玄武の守り主役でヨン様とも共演している。
2010年8月現在、大麻吸引疑惑で拘束されているが、業界内には同情する声が多い。
少女時代との関連で言うとユリが出演したココアのCFに父親役で出演している。プチ情報である。
『OLDBOY』は本国でも大ヒットし、ほとんどの韓国人が少なくとも一部は観たことのある映画である。
R−15指定にもかかわらず世代を超えた名作なのは、少女時代のサニーが出演している
スーパージュニア-Hの『料理王』のMVが、この映画のパロディで始まっているところからもうかがえる。
『料理王』
※SMエンタのキャスティングシステムは、ほぼ毎週の公開オーディション(数百〜数千人規模で、時には世界中で行われる)の他、
街中でのスカウトもある。ジェシカ、ティファニー、ソヒョンはスカウト組。
ソヒョンは小学生の時、イトコと地下鉄で遊んでいたらスカウトされたと語っている。
こうして年間数十人が練習生となり、歌謡、ダンス、演技を叩き込まれる。が、そのほとんどが脱落していく。
少女時代はインタビューを受けて「練習生は互いにライバルではなく、頑張って生き残った仲間であり家族のようなものだ」。
他人を蹴落とすより自分を磨かないと生きていけない世界だと言うことか。