関西ソニョシデ学園

過去に生きるK-Popのブログ

第616話 ソウル白熱教室

♪キーンコーンカーンコーン
教授「それでは本日の講義を始める。今日はひとりの女性歌手についてや。
  教材はこれ(ぽち)」


     JOO『泣いて吹く』


受講生「…(誰や?)」
教授「彼女の名はJOO、本名はチョン・ミンジュという。2008年にデビューしたソロ歌手やが、知っとる者は?」
受講生「(しーん)」
教授「そうかぁ、誰も知らんか。まぁ、無理もない。(ぴし)そこのキミ、聴いてどお思うた?」
受講生「えーっと、地味やなぁと」
教授「地味か(苦笑) まぁそおかもな。
  最近カムバックしたソロ歌手…Ailee、テヨン、IUと比べると確かに華やかさにおいては一歩も二歩も譲る」
受講生「お、なに気にJUNIELを無視したで」
受講生「なにぃ? あの韓国の大原櫻子を無視したやと?」
受講生「教授はジュニたんが嫌いなんか?」
受講生「いやいや、教授のことや、いずれJUNIELでひとコマ講義するつもりであえて外したのかも知れんど」
受講生「なるほどー」
教授「…そやけど、地味なのがあかんことやろうか?」
受講生「そこはまぁ人気商売やし、目を惹くに越したことはないでしょうか」
受講生「そもそもアイドルが地味ってことがおかしいのでは?」
教授「ああ、さっきAilee、テヨン、IUと比較したから誤解されたかも知れんな。彼女はアイドルとはちょっと違う」
受講生「ええっ? 若くて美人なのに?」
教授「若くて可愛くても、さくらまやはアイドルやなく演歌歌手やろ? 同じようにJOOはバラード歌手であって、本来はB.M.Kやイ・ウンミと比較されるべき存在なんや。
  デビューした当時は高校生やったから、当たり前のようにアイドルと思われたし、同僚が当時の最強アイドルグループWonder Girlsやったせいもあって、本人もアイドルと呼ばれることにあまり抵抗がなかったようや。
  その結果、歌手としての実力が、人気や売り上げによって計られることになり、少女時代やWonder Girlsや2NE1、後にはIUなどのような化け物アイドルにあっという間に押し流されてしもうた。
  元々テヨンのような万能歌手でも、IUのような愛らしさがある訳でもなかったから当然や」
受講生「ありがちやな」
教授「その通り。彼女がオリジナル歌手として活動した期間は思いの外短い。
  さっきもゆうた通り2008年1月にデビューしとるが、その時の活動曲が『男のせいで』。師匠に当たるJYPの名曲を授けられたとゆわれとる」


     JOO『男のせいで』


受講生「ええ歌やん。切ないわー(ぐすん)」
受講生「そやけどこれ、主演は本人やないですね」
教授「うむ。本人が出らんMVがデビューやと、以後売れなくなると言うジンクスはこの曲で出来た」
受講生「マジすか?」
教授「NC.Aがそれを証明しとるよ」
受講生たち「あっはっはっは!」
教授「この曲はそこそこヒットして話題にもなったんやけど、その直後に韓国の加護ちゃん事件と呼ばれるスキャンダルが発覚して、一時表舞台から身を引くこととなった」
受講生「韓国の加護ちゃん事件?」
教授「詳しくは『関西ソニョシデ学園』第577話を参照するように。購買部で売っとるから」
受講生「教育者のくせに低俗な本を奨めるなぁ」
教授「で、一旦練習生にもどって禊ぎを済ませた彼女がカムバックしたのが2011年1月。デビューからまる3年を経てのことやった」


     JOO『悪い男』


教授「この曲の作詞作曲は当時ヒット曲製造器と呼ばれていたE-tribe。プロデューサーのE.Dと作曲家アン・ミョンウォンによるユニットや」
受講生「ヒット曲製造器? てことはこの曲は売れたんでっか?」
教授「いんや」
受講生「(かくん)あかんやん」
教授「なにしろ、アイドルとしては死ぬほど地味やし、E-tribe自身もかつての輝きを失いつつあった時機でもあった。
  一部のペンだけは喜んだが、それ以外は特に話題にもならんと、数週の活動を経てひっそりと消えていった。
  事務所から相手にされなくなったのもこの頃からや。多分熊切あさ美のような立場やったんやないかと想像する」
受講生「(くりくり)『悪い男』の直後に『アイスクリーム』ゆうデジタルシングルも出してるて、ウィキペディアに書いてありますけど」
教授「そんな黒歴史は忘れてあげなさい。
  彼女がなんとかしがみついていた断崖絶壁。この崖っぷちから這い上がってきた元アイドルは極めて少ない。イ・サンウンやユンナくらいやろう。
  彼女らは自分で曲を書いておったから、なんとか生き残れたんやけど、JOOは生粋の歌手で自作は手がけてなかった」
受講生「なんやて? オレでさえPC自作するのに」
教授「キミはしばらく黙ってなさい」
受講生「しゅーん」
受講生「(はいっ)それじゃ、彼女は売れないアイドルと誤解されたまま、崖から落ちていったんですね」
教授「ところが、案外しぶとくてな。自作せえへん代わりに、OSTやミュージカル女優として糊口を凌いでおった」
受講生「事務所はなにも助けてくれなかったんですか?」
教授「じぇんじぇん。もともと彼女のおったJYPEゆう事務所は歌手を生み出すのには熱心やが、売り出すのにはちっとも熱心やないんじゃ」
受講生「お、なんか上手いことゆうてるぞ(笑)」
受講生「ワシのPC自作ゆう例えの方が上手ないか?」
受講生「やかましい。単位落とせ」
教授「この背景には、もともと上昇志向が薄く、歌が歌えればそれでええとする、彼女ののんきな性格もあったようや。
  売り方が下手な事務所と欲が薄い歌手というぬるーい関係が、そのまま7年も続いてしもうた訳や」
受講生「割れ鍋にとじ蓋やな(笑)」
教授「そやけど、さすがにそれではあかんと思うたんやろな。契約が切れた今年の1月に、彼女はJYPEを辞めてSME傘下のWoollimエンタに移籍した」
受講生「なるほど。ダメ女がダメ男から自立した訳ッスね」
教授「その後すぐ新曲を出すかと思われたが、ここでものんきなもんやから、半年以上かかってようやく11月にカムバックした訳や」
受講生「何年ぶりの新曲ですか?」
教授「ほぼ5年やな」
受講生「ぴゃー。『1stガンダム』から『Z』までの制作期間ぐらい隔たってるで」
受講生「ピンと来んわ」
教授「新曲『泣いて吹く』は音源チャートで一瞬1位になり、未だ根強いペンがおることをうかがわせた。
  消費される一方のアイドル業界としては珍しいことで、これを持ってしても彼女の本質がアイドルやないことが判るやろ。
  もちろんJOO本人も長い雌伏の期間に己の本質について考える暇はたっぷりあったはずで、そやからこそ再起の曲にこんな地味な歌を選んだんやとワシは思うとる」
受講生「先生の考える彼女の本質ってなんですのん?」
教授「そやな、それにはまずこの曲を聴いて貰おう」


     JOO『招緣』


教授「この曲はデビューアルバム『幼い女』にも収録されておるが、KBSのドラマ『漢城別曲−正』の挿入歌で、半裸師匠ことJYPが作詞作曲をしとる。
  この時JOOはまだ17歳やったはずやけど、これ聴いて、どお思う?」
受講生「なんか泣くように歌う歌手ですね」
教授「そう、それが彼女の特徴的な歌い方や。男で言うなら8eightのイ・ヒョンみたいな」


     イ・ヒョン(feat.ソヨン)『30分前』


受講生「なるほど」
教授「もう一曲」


     JOO『期待したんやで』


受講生「あ、『サラリーマン 楚漢志』のOSTや。これは知っとるで」
教授「このドラマは決して暗い内容ではなく、コメディ的な要素も多かった。事実、イトゥクとキィが歌うた『Bravo』ゆう曲は軽快なポップスや。
  そやのに、彼女が担当したのはこんな曲」
受講生「どうしても泣いてるように聞こえるからですかね」
教授「そうでもないんやで。『パパ3人ママ1人』ゆうドラマではロック調の主題歌も歌うてるし」


     JOO『それが愛だ』


受講生「でも、微妙にビブラートしますね。笑い泣きみたいな」
教授「ま、声質もあるし、底抜けにハッピーって感じにはならんわな。
  それでは、ここまで聴いて来て…彼女の資質はなんだろう?」
受講生「絶唱型ですかね。やはり軽快よりしんみり、幸福より悲劇が似合う歌手だと思います」
受講生「同感です」
教授「そうやね。悲嘆、哀切、絶望などの負の感情を表現するのが非常に上手いね。
  それこそが彼女の本質、他にない個性とゆうてええと思う」
受講生「負の感情が得意なアイドルなんて(笑)」
教授「そやからゆうたやろ、彼女はアイドルではない、て」
受講生「バラード歌手とおっしゃってましたね」
教授「そう。JYPEがもっと早くそれに気付いて、テレビ中心の活動やなく温泉廻りかなんかさせたらよかったのに」
受講生「それもどおかと思いますが」
教授「まぁ長い逡巡の時を経て、彼女はようやく自分の本質を見いだしたとゆうべきやろう。
  新曲『泣いて吹く』は確かに華やかな歌ではないが、じっくり聴くと背筋が震えるほど深い情感が込められた歌であると気付く。
  5年の間にミュージカルや人生経験などで学んだせいか、今の彼女の感情表現はとても深く濃やかや。
  その辺の所を、今年“Melon Music Awards”のバラード曲部門で受賞したペク・アヨンのデビュー曲と聴き比べてみよう」


     ペク・アヨン『遅い歌』


教授「この曲を比較対象に選んだのは、アヨンがJOOにとってJYPEの後輩で、詞をともにパク・ジニョンが書いておるからや。
  JOOと比べてどお感じた?」
受講生「キレイな歌い方で、確かに悲しい感じはするけど、絶望までは行かないような」
教授「そこや。JOOはデビューの頃から聴いてる側が首を吊りたくなるような絶望感を声に含んでおった。
  ワシなんか密かに『絶望先生』と呼んでおったほどや」
受講生「嘘つけ」
教授「ま、アヨンたんも、これはこれで可愛ええから好きやけどね(てへ)」
受講生「(ずる)そんな情報、いらん」
受講生「話を戻すと、アイドル向きではないけど希有な個性に、ここ数年の間に彼女自身が気付いたと?」
教授「わしはそお思うとる。気付いたのは彼女だけやない。恐らくE-tribeも、『悪い男』で組んで彼女の資質に気付いておったはずや。
  そやから今回、彼らの方から声を掛けたんや」
受講生「え、E-tribeがJOOにカムバックの話を持ちかけたんですか?」
教授「そう聞いとるで。そもそもE-tribeは歌手に合わせて曲を書く作家ではなく、曲を作ってからそれに合う歌手を探すタイプらしい。『U-Go-Girl』の時もそうやった。
  歌手を決められて作ったのは『Gee』が初めてやったそうや」
受講生「へー、それは意外ですね」
教授「売れた結果、決められた歌手に楽曲を提供する仕事が増え、それが彼らの首を締めたのかも知れん。
  あっという間に輝きを失ってしまったからのお。
  まるでフレディ・スペンサーみたいに彗星のように現れ、彗星のように消えていった」
受講生「いや、消えちゃいないでしょ」
教授「そやな、消えるとこまでは行ってなかった。
  そんで、今回この『泣いて吹く』ちゅう曲を作って、この曲を歌えるのはJOOしかおらん、と思うたそうや」
受講生「つまり、本来の曲優先のスタイルに戻ったんですね」
教授「うむ。
  曲を書いてみたら、以前仕事したことのあるJOOにピッタリと思った。そんで話を持って行ったら、向こうもぼちぼちカムバックしようかなーと腰を上げかけたところやった。
  渡りに船とはこのこと。話はとんとん拍子で進んだんやないかと想像しとる」
受講生「あくまで想像なんですね」
教授「ま、本人に聞いた訳やないからね」
受講生「教授なら確認とってから教えろや(ひそひそ)」
教授「それにしても、なぜE-tribeのオツムにJOOの記憶が残っていたか。それはE-tribeの作る歌とJOOの資質が案外相性がええからやないかと思う」
受講生「そうですかー? E-トラゆうたら『U-Go-Girl』に『Gee』に『冷麺』ですよ」
教授「それはわかっとる。そやけど一方で、少女時代の『星 星 星』やイ・ヘリの『その時ウチは生きる』を書いておるのも事実や」
受講生「あっ、確かに」


     イ・ヘリ(DAVICH)『その時ウチは生きる』


教授「JOOの師匠のJYPもいやらしい歌ばっかりやなくて、バラードの名作も多い。そう言う意味ではJYPとE-tribeは似たところがあるのかも知れん。
  JOOを選ぶところもそうやしな」
受講生「それで、JOOとE-トラの相性ってなんですか?」
教授「うむ。それやが…その前に『泣いて吹く』のMVの映像的な面についてはどお思う?」
受講生「なんだかよく判りまへんでした。壁のカビに悩んで泣く歌かなーなんて(笑)」
受講生「ウチは、まっくろくろすけかと思いました」
教授「ストーリーがないから判りにくいやろ」
受講生「はい」
教授「それは歌詞にストーリーがないから、当然MVもそおなる訳や。監督が心象風景を表現したら、ああいう壁のカビみたいな映像になった訳や。
  これで判る通り、E-tribeの歌詞の大きな特徴に、ストーリー的ではないちゅうのが上げられると思う。
  例えば『U-Go-Girl』ではデート前の女性の心情を、『Gee』では初恋にときめく女の子の気持ちを、『星 星 星』では片思いの少女の苦しい思いを、詞にしているが、ここで表現されるのはあくまでも心情であって状況ではない」
受講生「そおゆうたら」
教授「JOOのデビュー曲『男のせいで』とE-tribeが書いた『悪い男』は、共に男に捨てられた女性の話やが、『男のせいで』ではふられたことが状況的に描かれ、最後に“これからは自分ひとりで生きていくわ”と力強く終わる。絶望的な状況から抜け出す姿勢を見せることで、まずまずストーリー的とゆえるやろう。
  一方『悪い男』の方は、男に捨てられた嘆きを延々繰り返すだけ。ストーリー的な展開も、救いもない。
  これは新曲『泣いて吹く』でも同様で、とにかく悲しくて泣いて吹いてるだけなんや」
受講生「へー、E-トラって、意外に抒情派やったんですね」
教授「その通り。そう考えた時、JOOの、とにかく悲嘆に暮れた絶望的な感情表現はピッタリなんや。四の五のゆわんと今は悲しいんや、今は泣きたいんや! とゆう、E-tribeが伝えたかった思いがストレートに表現される訳や。E-tribeがこの曲を書いて、歌手にJOOを選んだのはそうゆう理由からではないかと思う」
受講生「うーむ、目からウロコや」
♪キーンコーンカーンコーン
教授「そう思って聴くと、シンプルな歌詞だけに、彼女の歌だけが心に染み込んでくる気がする。
  確かに1位をとるような歌ではないが、心の奥にずっと留まり続ける佳曲なのではないやろうか。
  最初にゆうたように、JOOとゆう歌手は、テヨンやIUの様な恐ろしいまでの上昇志向や表現欲を持ち合わせてはいない。
  それでも、他にない魅力的な個性の持ち主ではあるし、それなりの欲もある。
  紆余曲折ながら、到達した現在の域は素晴らしいものだと思う。
  継続は力なり。人知れず努力を続けてきた彼女は“逆しくじり先生”とゆえるのではないやろうか?
  本日の講義はここまで」
受講生「(こけっ)最後のボケ、いる?」
受講生「せっかくええ話やったのに(呆)」






※てな訳で、2015年11月2日、JOOがなんとほぼ5年ぶりにカムバックを果たした。
 発表直後、この音源は、オルレミュージック、モンキー3、Mnet、NAVERミュージックなど、4つの音源サイトリアルタイムチャート1位を記録。Melonなどでも上位にランクされ、幸先のよい出だしとなった。
 曲に関しては本文にある通りなので、MVのメイキングビデオなどを紹介しておこう。
 Woollimでの雰囲気は悪くないようである。


     『泣いて吹く』MV Making


     『泣いて吹く』Photoshoot Making Film