関西ソニョシデ学園

過去に生きるK-Popのブログ

第615話 清潭洞でアリス

がやがやがや
通行人「お、あれは歌手のIUやないか?」
通常人「マジか?」
通行人「あの黒マスクにホットパンツ姿はおそらく…」
通行人「さすが清潭洞や。生のIUが見れるなんて(感動)」
IU「(ふふふ…どうしても通行人の目を惹かずにおれない、ウチは天性のスター、まさに夜光蝶)あっ…」
こけっ
通行人「あ、転けた」
通行人「間違いない、IUや!」
IU「いててて(てへ)」
ずんっ
IU「…ん?」
声「道の真ん中で寝てるんやない。通行の邪魔や」
IU「な、なんやて?」
通行人「あ、IUの前に美女が!」
通行人「風になびく金髪。スカートの下からパジャマのズボン…あれは少女時代のテヨンや!」
通行人「なんと!(がーん) ランキングでは、あのAileeですらまったく相手にならなかったという生きる伝説の登場や」
通行人「今のテヨンに太刀打ち出来るのは、IUか今度カムバックするJOOだけやという噂やで」
通行人「ホンマか?」
通行人「そのテヨンとIU、女性ソロ歌手の最高峰が道の真ん中で鉢合わせとは」
通行人「まさに竜虎の激突!(ぶるぶる)」
テヨン「さっさとどけや」
IU「い、いやですわ(ふん)」
通行人「おおっ、テヨンに逆らった」
通行人「飛び散る火花。まさにランウェイ上のトリンドルとダレノガレ」
通行人「どっちがトリンドルで、どっちがダレノガレや?」
通行人「その辺はお好みで」
テヨン「ウチに逆らうとはええ度胸やな」
IU「ここは天下の往来。ねえさんの所有物やありまへんよって」
テヨン「(おほほほ)アホやな。往来も音楽ランキングもぜーんぶウチのものじゃ。ウチの前に立ったら怪我するで」
通行人「おお、凄いことを言い放ったぞ」
通行人「まさに平家にあらずんば人にあらずと言った平時忠並の傲慢」
通行人「だがその傲慢が彼女なら許されるのも事実」
IU「ふふふ、来週になってもその台詞がゆえるか、楽しみですわ」
通行人「そうか、来週からIUの新曲が賞対象になるんやな」
通行人「ナイス解説」
テヨン「ま、まぁ1週くらいは1位譲ってやってもええけどな(←ちょっと弱気)。
  それより自分、今回活動せんちゅう噂やが、それでウチに対抗出来るつもりか?」
IU「体調が充分やないので仕方ありまへんわ。本来ならテレビにバリバリ出まくって、ねえさんをぎゃふんとゆわせかったんやけど」
テヨン「つまり逃げた訳やな(笑)」
IU「ちゃいますわ。マジで具合悪いんやって」
テヨン「ほー、妊娠でもしたか?」
通行人「な、なんやてぇ(がーん)」
通行人「そうゆうたら2年間交際しとった相手がおったとか」
通行人「まさか、出来ちゃった告白やったんか?」
IU「ちょ、ちょっと、へんな噂立てるのやめてくださいよ。
  ウチは来月のコンサートに焦点を合わせとるだけです」
テヨン「そんなんテレビ出ながらかて出来るやろ」
IU「全力を注ぎたいんですぅ」
テヨン「ウチなんか少女時代で夏中活動しながら、ソロの準備もして、ソロコンサートやりながら、来月の少女時代ソウルコンの準備も再来月の日本コンサートツアーの準備もしとるで。プロならそれぐらいやって当然や」
IU「う…」
通行人「そおゆうたらそうやな」
通行人「いや、テヨンが特別なんや」
通行人「少女時代はみんな衣笠祥雄並の鉄人やから」
通行人「やっぱSMは鍛え方が違うわ」
テヨン「貴様のカムバックを楽しみにしていたペンのためにも、コンサートがどーだの体調がどーだのと逃げを作らず、テレビに出てパフォーマンスを披露するべきやったな」
IU「…」
テヨン「そんな根性やから、今回のMVもあんな中途半端な出来になるんや」
IU「(なぬ?)MVが中途半端やて!?」
テヨン「中途半端でないなら勘違いなMVや」
IU「むきーっ!」
通行人「とゆわれても、どんなMVなんや?」
通行人「そうやで。こんな往来じゃMVが観れんではないか」
通行人「ほんならワシのGalaxy Viewで観たらよろしい(すっ)」
通行人「おお、これはありがたい」
通行人「便利な世の中になったものや」
ぽち


     IU『23』


通行人「ほー、これが『23区』か」
通行人「ワシは五大陸の方が好きやな」
IU「誰がブランドの話をしとるかっ!」
通行人「そやけど、どの辺が中途半端なんや?」
テヨン「2分20秒頃を観てみい。バックダンサーの踊りが揃ってないし、なんか目がうつろで気持ち悪いやないか」
通行人「ゆわれてみれば確かにキモイな」
IU「これはそおゆう演出やから。『不思議の国のアリス』のシュールな世界を表現しとるから」
通行人「そうやったんか」
通行人「そんなら納得出来るような」
テヨン「それが勘違いゆうんや。
  自分、『不思議の国のアリス』をちゃんと理解して取り入れたんか?
  案外ディズニーの映画辺りから仕入れた浅薄な知識だけで、お手軽に作ったんとちゃうのか?」
IU「そ、それは…確かにそんなに深くは勉強してへんけど。大概の人にとって『ふしぎの国のアリス』ってこんなもんでしょ?」
テヨン「たわけ!
  ルイス・キャロルと彼が生み出した魅力的な創作世界は、すでに150年間も世界中で何万人という愛好家によって調べまくられておる。
  この19世紀イギリス幻想文学の金字塔、決してお手軽に扱ってよいものではない!」
IU「しえー」
テヨン「原作『不思議の国のアリス』で白ウサギを追って穴に落ちたアリスが、それをきっかけに次々と不思議な登場人物に会い、冒険を繰り広げるという構造を、ケーキに顔を突っ込む(=穴に落ちる)、部屋を次々と走り抜ける(=落下の水平転化)などにイメージ変換した点は良しとしよう」
IU「ほっ(ええんかい)」
テヨン「しかし、その先に展開されるマッドな世界があかん!」
IU「なんでですのん? ちゃんとシュールでナンセンスな世界を表現しとるやないですか」
テヨン「自分がやると、どうにもウェットでベターっとしとるんじゃ。ドライ且つブラック、これがイギリスのユーモアの特色やが、その辺がさっぱり表現出来てへん」
IU「そうかなぁ(不満)」
テヨン「もっとゆうなら、ヴィクトリア朝の香りがじぇんじぇんせえへんねん」
IU「ヴィ、ヴィクトリア朝?」
テヨン「そうや。『不思議の国のアリス』が書かれた1863〜4年頃はヴィクトリア朝のまっただ中。その時代背景の影響も色濃い。
  ヴィクトリア朝とゆえば、近代イギリスの絶頂期。産業革命によって国は富み、科学は発展し、政治はリベラルに、文化は熟成した時代。
  文学だけでも、ディケンズ、エリオット、オスカー・ワイルドコナン・ドイルと枚挙にいとまがないほど、著名な作家を生み出した。
  芸術的熟成を示すええ例が『不思議の国のアリス』の挿絵や」


     ジョン・テニエル版(1865年)


IU「おお、お茶会の場面や」
テヨン「これは当時売れっ子の挿絵画家ジョン・テニエル画伯の手によるもので、彼は他にもルイス・キャロルの作品を多く手がけておる」
IU「えらい細かいスなぁ」
テヨン「うむ。非常に繊細なペン画で、リアルに描かれてやろ? そやからこそ画題のナンセンスさがより強調される訳や。
  テニエル画伯の次に人気があるアーサー・ラッカム版の挿絵も同じく繊細で写実的なタッチや」


     アーサー・ラッカム版(1907年)


IU「ホンマやー」
テヨン「ラッカムはヴィクトリア朝後期の画家やが、それだけに文化が一番熟成した時代の作家とゆえる」
IU「ほえー」
通行人「すげー、テヨン博学やんけ」
通行人「うむ。IUたんがすっかりタジタジや」
テヨン「それやのに、自分のMVにおける白ウサギはなんや? ハナクソやないけ」


    


通行人「ぷっ」
通行人「笑うたらあかんて(笑)」
通行人「そやけど、確かに挿絵の絵と比べるとなぁ(笑)」
テヨン「こんなジェシカが描いたような白ウサギで、市井にあまた存在する『不思議の国のアリス』研究家を納得させられるか!」
IU「しょぼーん」
テヨン「ヴィクトリア朝の時代は、その一方で、貧富の差、売春、児童労働、帝国主義による植民地搾取政策など、多くの矛盾も含んだ時代やった。
  『不思議の国のアリス』の人を食ったようなナンセンスに、こうした矛盾への皮肉を感じることはもちろん可能や。
  しかし、ルイス・キャロルを知る者は、むしろ彼のナンセンスはナンセンスであること自体がその意義であると思っている。
  それはルイス・キャロルの職業と人物像に関係あるんや。
  ルイス・キャロルとは何者か? はい、ジウンくん!」
IU「え? え?
  えーと、えーと、じゃあ紙芝居屋さん!」
テヨン「ぶーっ。同じ名前やのに、ウチの兄貴の方が遙かに出来がええやないか」
IU「放っといてくださいよ」
テヨン「ルイス・キャロルの本名はチャールズ・ラトウィッジ・ドジスン…オックスフォード大学数学科の教授や」
IU「ぴゃー、マジで?」
テヨン「貴様のような浅学非才な白頭には大学なぞ無縁やろうが」
IU「む(自分かて高卒やんけ)」
テヨン「オックスフォードとは同名の街に存在する多数のカレッジの総称。
  ドジスンが教鞭を執っていたのは、その中のクライストチャーチゆうカレッジで、ここのグレートホール(大食堂)は映画『ハリー・ポッター』シリーズに出てくるホグワーツ魔法学校の食堂として撮影に使われておる」
IU「あ、観た観た」
テヨン「グレートホールには歴代の教授の肖像が並べられておるが、ドジスン教授の肖像ももちろんある。それどころか、ステンドグラスにはアリスの肖像もある」
IU「へー。今度『ハリー・ポッター』観る時は注意しとこうっと」
テヨン「…(そんな細かいとこ映ってる訳ないがな)
  ドジスンは生まれつき“どもり”で、自由な時間は大人と喋るより子どもとすごす方を好んだとゆわれておる。
  そこで遊び道具に選んだのが、言葉遊びや論理ゲーム、暗号、パラドックス、パズルなどで、数学者にとっては得意分野や。
  子どもっちゅうのは遊びの中にルールを発見するのが大好き、次にそのルールを逆手にとった遊びも大好きな生き物なので、こういった言葉遊びやパズルに夢中になったんやろう。
  特にドジスンは“かばん語”ちゅうて、ふたつ以上の単語から合成した単語を作るのが得意で、作品の中でも数多く発表しておる。
  これも、子どもの創造力を刺激するにはええ道具やったようや」
IU「…(なんか段々難しゅうなってきたなぁ)」
テヨン「そんなドジスンがクライストチャーチの学寮長ヘンリー・リデルの娘たちに語って聞かせたのが『地下の国のアリス』…のちに加筆されて『不思議の国のアリス』として出版されることとなる物語や」
通行人「おおっ」
テヨン「リデルの3姉妹のうち、次女アリスは当時12歳。彼女が物語のモデルとゆわれておる」
IU「えーっと…つまり、子どものための物語やから、ナンセンスに政治的意味はないと?」
テヨン「そお。しかも、ドジスンは9歳のアリスにプロポーズしたり、当時珍しかった写真機を使ってヌードを撮影したりするほど、彼女に傾倒しておった」
IU「ぴゃー、変態やないすか」
テヨン「今なら懲戒免職どころか刑務所行き確実やが、当時は特に犯罪やなかったんでーす」
通行人「羨ましい時代やなぁ(涎)」
通行人「これこれ。迂闊にそゆことゆうと逮捕されるで」
テヨン「それでもさすがにプロポーズは非常識やと、母親に断られた」
通行人「それはそうやろうな」
IU「ほんならその教授は変態やったんですね」 
テヨン「今の基準ならそう思われても仕方ないやろうけど、アリスに対する愛情は真剣なものであったと考えられる節もある。
  アリスがおばあちゃんになった頃にドジスンとの仲を回想する映画『ドリームチャイルド』では、純粋な気持ちであるように描かれている」


     『ドリームチャイルド』予告


IU「へー」
テヨン「ま、でもやっぱり変態やったんやろうけどな」
IU「(かくん)あかんやん」
テヨン「とにかく、さまざまな要素が幾重にもあって、非常に深い読み応えがあるのが『不思議の国のアリス』や。
  150年も世界中で愛され続けてきたのにはちゃんと訳があるのじゃ」
IU「なるほど」
テヨン「しかるに、貴様のその薄っぺらいアリス観はなんじゃい!」
通行人「おお、やっと話が『23』に戻った」
テヨン「イギリスでもなんでもない、ただのヤンキー娘になってもうたディズニー版なんか参考にするから、深みがなくなるんじゃ」
IU「そやけどぉ、ディズニーも世界中から愛されてるし、悪くないんやないですか?」
通行人「そうやな。今じゃ大半の人にとっては『アリス』ゆうたらあっちやもんな」
テヨン「認めません! ウォルト・ディズニーなんぞ、人々の夢を実現させる芸術家みたいに思われてるけど、7歳から絵を売って稼いでいた商人やど。金の亡者に決まっとるがな」
IU「がーん」
通行人「えらい言いようやな」
通行人「そやけど、ルイス・キャロルも“社会的な野心家だった”てウィキペディアに書いてあるで(くりくり)」
通行人「ほんならディズニーのこと言えんやん」
通行人「しー、余計なことをゆうな。殺されるで」
テヨン「どうせ映画を参考にするなら1972年のイギリス映画『アリス 不思議の国の大冒険』でも観るこっちゃ。
  テニエル画伯のイメージを参考に作られた比較的正当なものやから」


     『Alice's Adventures in Wonderland (1972)』


テヨン「この映画の音楽は007シリーズで有名なジョン・バリーなんやけど、とてもリリカルなスコアを書いてるんや。
  ウチの知り合いのおっちゃんなんか、A面が007でB面がアリス組曲ちゅう摩訶不思議なLP持ってたんやで」
IU「そうかぁ。『不思議の国のアリス』… 奥が深い(よろよろ)」
テヨン「貴様のMVが中途半端ゆう意味がわかったか」
IU「ぐぅー」
テヨン「MVが中途半端ゆうことは、そこに込められた主張も中途半端ゆうことや。つまり、貴様の作詞作曲能力も中途半端なんじゃい!(どーん)」
IU「そ、そやけど、この歌は23歳のウチの率直なキモチで、多くの同世代の人たちが賛同してくれてますぅ」
テヨン「アホか。そもそもペンなんて何でも賛同するんじゃ」
通行人「それは確かに(笑)」
テヨン「それに23歳の率直な気持ちゆうけど、“今が楽しい”→“いやホンマは逃げ出したい”とか“恋がしたい”→“お金稼がなきゃ”とかゆう相反する気持ちはウチにもある。
  それどころか、多くの世代がこうしたアンビバレンツな思いを抱いておる訳で、別に23歳特有のモンやありまへんから!」
IU「がーん!(がっくり)」
通行人「すげー、小藪千豊みたいな論調で切って捨てたど」
通行人「山刀の切れ味やな」
通行人「てか、ルイス・キャロル蘊蓄言いたかっただけやないのか?」
テヨン「はっはっは。自閉症の若者向けみたいなMVばかし撮っとらんと、次は青空の下、ニュージランド辺りで撮影するんやな」
IU「ち、ちくしょう!」
闊歩闊歩
通行人「肩で風切って去って行くで」
通行人「まさに検非違使の歩き方や」
通行人「てか、あのIUたんが完膚無きまでにボコられるとは」
通行人「テヨンたんが男と別れたばかりで、怖いモノものがなかったせいかも知れんな」
てってけてけてけ
通行人「あっ、あっちからJOOがやって来るど」
通行人「マジか?(ぴゃー)」
通行人「悪い男を銃撃して務所暮らしやったけど、こないだ釈放されて5年ぶりにカムバックするらしい」
通行人「そ、そんなやばい奴やったんか(汗)」
通行人「とかゆうてる間に、IUたんのすぐ近くまで」
通行人「接触するど。第3種接近遭遇や」
通行人「ひー、国民の妹vsJYPの宝石! タダではすむまい」
JOO「あ、IUやないけ!」
IU「その声は…ミンジュねえさん」
JOO「その姿…はっはっはっは! …道で寝とったら風邪ひくで(すい)」
通行人「あ、道を譲った」
JOO「早よ病院行きや〜」
通行人「(こけ)ダメな奴やー(呆)」
通行人「今回もあかん気がする」







※主な執筆時期は10月第4週であり、発表時期と多少ずれのあることをご了承ください。


※『Alice's Adventures in Wonderland』は、日本では多くの場合『不思議の国のアリス』と表記されるが、ディズニー映画のタイトルは『ふしぎの国のアリス』である。


※『ドリームチャイルド』…今では観る機会も減ってしまったイギリス映画。DVDも中古でクソ高い。
 が、ギャビン・ミラーによる丁寧な演出、『セサミストリート』のジム・ヘンソンが手がけたクリーチャーなど見所は多く、名作と言ってもよい。
 たまにBSの深夜などでやってたら是非観るべし、なのである。