第171話 Direct Business
ぴんぽーーーーん
ユナ「(来た!)はい、はーい」
ばたばた、がちゃ
黒服「(ぬお)お迎えに上がりました」
ユナ「へえ、今日はお世話になりますぅ。おねえたち、迎えが来たで。支度できてるんやろな?」
ソニ「(ごしごし)うきゅ〜、超ねむーい」
ユリ「大体いま何時や思うてるねん。めざましテレビに出たとき並に早いで」
ヒョヨン「そもそも今日はオフ日やったんやないの?」
ユナ「そやから急な公演が入ったて、昨夜説明したやないか」
テヨン「そんなん、なんでリーダーのウチやなしに自分に話するかなぁ。クッキーマンはどこ?」
ユナ「え、えーと、今日は奴は来れへんゆうとった」
ティパニ「はぁ? 急に仕事ねじ込んどいて自分は来れへんとはどおゆう了見や」
ユナ「まぁまぁ、事情はあとでゆっくり説明するさかい、とにかくクルマに乗って。早う早う(ぐいぐい)」
ソヒョン「シカねえがまだ起きて来ませーん」
ユナ「あーもお。誰か布団ごとクルマに放り込んでや」
ユリ「自分でやれや、一番力持ちなんやから」
…
ずるずる、ごん、ずるずる、ごんごん
ユナ「ひゃー、重いなぁ」
ヒョヨン「マジで毛布ごとシカを引きずって行くとは」
スヨン「それよりも階段でがんがん後頭部を打っとるのに、まったく起きる気配がないシカがすごいわ」
ソニ「もお死んでるんちゃう?」
ティパニ「あの黒服のおっちゃん、手伝うてくれてもよさそうやのに、一切しゃべらへんしなんか不気味」
黒服「(くるっ)」
ティパニ「ひーっ(聞こえたかな)」
黒服「(がちゃ)どうぞ、お乗りください」
テヨン「黒塗りのリムジン…」
ヒョヨン「あきらかに裏業界の匂いがしますけど?」
ユナ「き、気のせいやって」
ジェシカ「鈍い後頭部の痛みと共に寝覚めると、私は飛行機に乗せられていました。大型ビジネスジェット機ボーイングBBです。
公演だと聞かされていたのに、メンバーの他にはマネージャー陣もヘアメイクさんもスタイリストさんも乗っていません。
黒服の男たち数名に囲まれて、メンバーはみな押し黙って冷たい汗をかいていました。
再び寝てしまったのでよくわかりませんが、おそらく2時間ほどの飛行の後、ボーイングはとある空港に着陸しました。
歩きながら空港の看板を見ると、なにか漢字が書いてありました。そう、そこは韓国ではなかったのです。
驚いたことに、私たちは税関を通ることなく空港を出て、アメリカ製の改造リムジンに乗せられました。
車内がとても快適なので三度寝てしまったのですが…」
スヨン「よくまぁあの状況で寝れるよなぁ」
ジェシカ「おそらく1時間ほど走ったと思います。郊外の大きな屋敷の前に停まりました。どう見ても倭風の建築様式です。
このとき初めて、私は、自分が日本にいることに気づきました」
ソニ「もっと前に気づかんかい、ボケ」
ジェシカ「聞くところによると、この屋敷でこれから、永いこと啀み合ってきた二つの家族が仲直りの儀式を行うのだそうです。
私たちはその式の後に出て行って、余興を行います。
いつも通り『Gee』と『Genie』と『運転手はん』を演ればいいと言われています。
私たちの世話をしてくれる黒服の人たちは、みな言葉使いは丁寧で、腰も大変低いのですが、異様な威圧感があります。
まだ私がちゃんと目覚めてないせいかもしれませんが、みなさん手の指が一本足りない気がします」
ユリ「気のせいやない」
ジェシカ「とにかく非常に変わった愛嬌です…」
ソニ「ん?」
ジェシカ「失礼しました、変わった営業です。慰問の方がまだわかりやすいです。
なぜこんな風変わりな営業を事務所が受けたのか、そしてなぜ事務所のスタッフが誰もいないのか、いま寝起きの頭でその謎を考えているところです」
テヨン「状況説明ご苦労やった。つまりはそうゆうことや。
ユナ、事務所からは自分になんて説明があったんや?」
ユナ「えーと、えーと、とにかく朝から迎えの人が来るから、ゆわれたとおりパフォーマンスして来いて」
ソニ「そんな公演あるか。いくらクッキーマンでも、こんな訳判らん営業とって来るほどパボやないで」
ティパニ「第一メイクや衣装はどうする気やねん?」
ユナ「あ、衣装はウチが事務所からかき集めて持って来た。メイクはみんな自分でやってや、な」
ユリ「いやや、ウチら世界を股にかけるトップスターやねんで。そんな出演者を舐めた興行なんか出来るか!」
ユナ「わがままゆわんと、演ってえなぁ。この営業とってくるの、結構大変やったんやから…はっ」
テヨン「やっぱりそうか。貴様、直営業を…」
ヒョヨン「えー、マジで? 事務所にばれたらえらいことやで」
ティパニ「しかもヤクザの手打ち式とか。危険すぎるやろ」
ユナ「そ、そやかて、ビヨンセやマライアかて、大富豪のプライベートパーティ用にレンタルライブやってるし、ほんならウチらかて需要あるんやないかな思て。
それに普段はちょっとした営業でも、スタッフ20人ぐらいついてくるやん。ひと公演でいくらとってるか知らんけど、ウチらのパフォーマンス、ほとんどそいつらの給料になってまうんやで。
ほんならウチらで直に仕事した方がええて、誰かて思うでしょうが。
試しにmixiのコミュに広告出したら、すごい反響で。そんで、いろいろ厳選して、ひと月かかってやっとここに決めたんや。
ここの親分、実はウチらのペンなんやって(えへへ)」
ジェシカ「(呆)真性のパボがここにいました」
ソニ「事務所を裏切るような行為はウチが許さへんで」
ユナ「でももお受けてもうたし。ここまで来たったし。頼むわ、うまく行ったらひとり100万(ウォン)あげるさかい。とっぱらいやで」
スヨン「とっぱらいで100万?(ぴゃー) ラーメン200杯分か?」
ユリ「たこ焼き300パック分?(くらくら)」
ソヒョン「揺れてる、揺れてる」
ユナ「テヨンねえも、リップあと50本買えるで」
テヨン「(うーむ)確かに直営業は魅力的…」
ソニ「ココマ!」
テヨン「(はっ)ちょっと待て、ビヨンセやマライヤは一回のプライベート営業でどんだけ貰うとるんや?」
ユナ「んーと、多くて300万くらいかなぁ」
テヨン「ウォンで?」
ユナ「(ギク)そ、そこまではちょっと」
テヨン「ドルやな。ウォン換算でざっと30億以上やないかい!」
ティパニ「貴様、ウチらをいくらで売りやがった?
ビヨンセ並みとは言わんでも、プライベートジェットやリムジン使えるほどの奴や、もっと仰山出してるはずやで!」
ユナ「きゃいーん、きゃいーん」
がちゃ
黒服「(ぬお)少女時代のみなさん、そろそろお願いします」
ユナ「はーい!(助かった)」
♪じゃーん
少女時代「ありがとごじゃましたー」
ヤクザたち「ええど、ええどー(パチパチパチ)」
親分「めんこい子たちじゃのお。これ、もそっと近う。一献進ぜよう」
スヨン「うひゃー、すぐ帰してくれへんのか」
ソニ「やっぱり、あれ断ったら失礼にあたるんやろな」
テヨン「ユナ、責任とって自分が行き」
ユナ「わ、わかったよお。(ちょこん)えへへ、ほな一杯いただきます」
親分「ぬっ(怒)」
子分「(がばーっ!)こらー、親分の前で片膝立てるとはどうゆう了見や」
子分「ヤクザ舐めとんのか、わりゃ」
子分「正座せんか正座を!」
ユナ「えへ、えへ、すんません。そやけど正座はちょっと」
ユリ「こんな高いヒールのブーツ履いて正座なんか出来るかいな。ウチの国じゃこれでも正式な座り方やぞ…て、通訳してやれ」
スヨン「え? えーと、その(もごもご)」
子分「第一ブーツ履いて畳に上がるとは何事や。失礼千万」
テヨン「そんなことゆうたら、この営業そのものが成立せんやないか」
ユナ「そうかぁ。次から倭服に足袋でパフォーマンスするかなぁ」
ヒョヨン「おいおい」
ティパニ「そんなチョッ●リな格好できるか。ウチらは誇り高き韓民族やぞ」
ソヒョン「アメリカ人のくせに」
テヨン「とにかく、そちらの要求は断る! さっさとギャラよこして解放するように勧告する」
ユリ「ウチら勧告人やから」
ソニ「くだらん」
親分「ワシの杯を拒むとは生意気な。これやから劣等民族はあかんねん」
ジェシカ「(むきー)なんやと、自分らの兄民族に向かって失礼な。儒精神の欠片もない奴らやな」
ヒョヨン「お前が儒を語るなよ」
テヨン「とにかく交渉決裂や。やっちまえ!」
少女時代「おー!」
どったんばったん
………
……
…
がちゃ
スヨン「ひゃー、やっと帰って来たで」
ユリ「東海泳いで戻ってきたからなぁ」
ソニ「ウソつけ」
ユナ「(しくしく)あんだけ苦労して一銭にもならんとは」
ソヒョン「ヤクザの組潰しただけやったな」
テヨン「とにかくこの件はユナに責任をとって貰うで」
ユナ「ええ?」
テヨン「当たり前や。事務所の目を誤魔化して直営業しようとしただけやなく、ウチらまで危険に巻き込みやがって。
今後8ヶ月、自分のギャラはなし。ウチらで山分けする」
ユナ「ひえー、勘弁してえな」
ヒョヨン「アホか。その程度で許して貰えてラッキー思えや」
ユナ「しくしく」
ぴー、げげげげ…
ソヒョン「おや、ファックスが…。なになに、”少女時代、ユナ様。このたびは私どもの公演依頼をお受けいただいてありがとうございました…”」
ユナ「おっ(喜)」
ティパニ「”おっ”やない! まだ直営業受けてたんかい」
ソニ「さっさと電話して断れや」
ソヒョン「いやー、ここは断れへん思うで。そんなことしたら戦争になるわ」
ユリ「なんで?」
ソヒョン「だって北の将軍様からの依頼やもの」
全員「(うきーっ!)ふざけんな、ボケ!」