第126話 Returner
スヨン「抜錨〜! 先任翔士、主機関に点火するがよい!」
クッキーマン「ほーい(ぽち)」
スヨン「あーあー、…(おほん)告げる、こちら艦長。すき焼き一世号、これより宇宙へ向けて出発する!」
ソヒョン「なんでラフィール風?」
ジェシカ「待て待て、いつから自分が艦長になったんや。それに”すき焼き一世号”てなんやねん?」
スヨン「そやかてこの円盤、なんか鍋に似とるし、ウチ、鍋物やったらすき焼きが一番好きやもん」
ジェシカ「すき焼き鍋には似とらん、せめて”ジンギスカン1号”にせえ」
ユナ「おしゃれに”コーヒープリンス1号”にしようや」
ジェシカ「おしゃれどころか、ダジャレやないか! ソヒョンの意見は?」
ソヒョン「”宇宙戦艦ヤ○ト”で」
ジェシカ「全国民からめっちゃ怒られるがな」
ユナ「…なんか、いっつもひとりだけ方向性が違うんだよなぁ」
クッキーマン「それがマンネのええところやないか。そやけどヤ○トはまずい。ここはスカイラーク号と言うことにしよう。
人類が初めて太陽系を離れるゆうのにこれほどふさわしい名前はない(第98話参照)」
スヨン「なんかファミレスみたい」
クッキーマン「食いモンのことばかり考えとるからや。ほなスカイラーク号、宇宙へ出発!」
バヒューン! シュバーッ!
スヨン「なんや飛行音が変わってるで。ゴンゴンゴンゴン…やなかったんか」
クッキーマン「おおっ、地球がもうあんなに小さく…」
ソヒョン「あっはっは、人がゴミのようや」
ユナ「ええかげんにせんか」
宇宙刑事「月の軌道の外側に出たら、一気に虚数空間エンジンに点火して超光速航行へ移行する。
そやけど、月の軌道付近にはフラワーロック星人の巨大円盤が大挙してして存在しとる。用心や」
スヨン「あの直径20キロもある奴か? なんでそんなところに?」
宇宙刑事「ラグランジュ点て知っとるか?」
スヨン「知らん。フレンチ・レストランか?」
宇宙刑事「ラグランジュ店やないわ!」
ソヒョン「『ガンダム』でおなじみの、周囲の天体質量と軌道速度がバランスして安定するポイントや。月軌道周辺に五カ所ある」
宇宙刑事「その通りや。(図解)奴らは地球の都市上空から引き上げた後、そのラグランジュ点に分散して待機しとったんや」
ソヒョン「ほら、ウチのアニメ知識も役に立つやないか」
ジェシカ「(うーむ)この図を見ると、L3とL4の間かL5の間を抜けるのが一番敵が少なそうやな」
宇宙刑事「残念でした! 正解は軌道面と垂直に、この画の手前か向こう側に抜けることや」
ジェシカ「あ、ずるい!」
宇宙刑事「何事も立体的に頭を使えよ。ここは宇宙やねんで」
スヨン「では先任翔士、軌道面を離脱。北極方面へ向かうがよい!」
クッキーマン「偉そうに。自分で考えた訳やないくせに」
ユナ「お、何か追っかけて来たで」
ソヒョン「一番近いL1点から巨大円盤1機、上がって来た。奴らの射程は?」
宇宙刑事「惑星破壊砲なら1光時くらいはあるで」
スヨン「そんな専門用語で言われても」
宇宙刑事「地球から火星までのざっと5倍やね」
スヨン「あかんやん(泣)」
宇宙刑事「まぁ、こんな豆粒みたいな宇宙船にそんなもんは使わへんと思う。一発あたりの経費が奴らの国家予算より高いからな」
ユナ「さすがスケールの大きい兵器は金食い虫やな」
宇宙刑事「宇宙戦では光線兵器はさして役に立たん。質量兵器か物理兵器が現実的やが、ここはやっぱミサイルやろうな」
ソヒョン「意外につまらんなぁ」
スヨン「遊びやないんやで」
ソヒョン「あ、撃って来た」
クッキーマン「わ、めっちゃ速いやんか。あっという間に追いつかれるで」
宇宙刑事「ミサイルは無人兵器やからな、えらい加速度かけられるねん。
理論的にはニッサンGT−Rの100万倍の加速が可能やけど、それやと経費が掛かり過ぎるし、まぁそこそこの速度で来ると思う」
スヨン「いちいち金勘定せな戦争出来へんのか」
ユナ「金は命より大事や。これこそ宇宙共通の概念やで」
ジェシカ「とにかく迎撃しようや」
ソヒョン「はーい、ならウチが対宙レーザーと迎撃ミサイルを撃ちます!」
宇宙刑事「おお、ばんばん撃ったれ。どうせ連中の船や、経費を気にせず撃ちまくれ!」
ジェシカ「こっちが撃つ度、攻撃した側が肝を冷やしたりしてな(笑)」
スヨン「そんな戦争、嫌やなぁ」
天使族航法士「敵迎撃態勢。ものすごい弾幕です!」
天使族艦長「わー、なんやこの数。たかがミサイル数発にどんだけ撃って来よるねん。あれはワシらの持ち船やぞ」
天使族アナリスト「向こうの迎撃費用の予測、スクリーンに出しますか?」
天使族艦長「出さんでええ。そんなん数字で見せられたら胃が痛くなるわ」
天使族航法士「我が軍のミサイル1機、破壊されました。残り4機です」
天使族艦長「あんだけ撃って、やっと1機かい。頼む、こんな無駄弾撃つくらいなら、さっさと全部迎撃してくれ」
天使族航法士「奴らの腕じゃ全部は無理でっせ。少なくとも1発は直撃します!」
天使族艦長「ひーっ! 弾代だけじゃなく艦の修理費もかかるやないか。どうか外れてくれー! あんな奴らにミサイル撃ったワシが考え足らずやった(おろおろ)」
天使族副長「こっちが撃ったミサイルの迎撃を敵に祈り、外れることを願うなんて、戦史上初かも知れまへんなぁ」
天使族艦長「やかましい! …それというのもワシらが貧乏種族やからや。貧乏が罪なんや」
ソヒョン「それ、それ(カチッ、カチッ) あ、また外れた」
宇宙刑事「下手やなぁ。自動追尾装置使うとる?」
ソヒョン「もちろんオフってる。そんなん使うたらおもろないやん」
ユナ「だぁー、ゲームやないんやから、使えや」
ソヒョン「ちぇ(ぽち)」
スヨン「お、急に迎撃の精度が上がった(ほっ)。またミサイル1発、撃ち落としたで」
クッキーマン「あかん、それでも弾幕をすり抜けてくる奴が…当たるでぇ!」
ズズズーン!
全員「(グラグラ)わーっ!」
天使族航法士「敵艦、被弾したようです」
天使族艦長「(ガーン)マジかよお、もお。下手くそめ」
天使族航法士「損害軽微なるも、少なくとも外板1/3は交換が必要かと」
天使族アナリスト「修理の費用予測、スクリーンに出しますか?」
天使族艦長「いらんわ! もお引き上げや。これ以上攻撃すんな」
天使族副長「ええんでっか? 連中、銀河連邦に告げ口する気でっせ」
天使族艦長「大丈夫。この先には総司令率いる母艦がおる。総司令ならオリオン腕方面軍の予算使い放題や。惑星破壊砲でも何でも使うてやっつけてくれるわ」
天使族アナリスト「いくら司令でも惑星破壊砲は無理でしょう。経費が掛かりすぎます」
天使族艦長「ふん、あのお方は我が軍のドバ・アジバと称せられるくらいプッツンな人や。ワシみたいに予算のことなんか気にするか」
天使族副長「そらそうですね」
天使族艦長「わかったらさっさと退却や。早よ戻って『パラダイス牧場』の続きを観るで」
ピカ
ユナ「あ、灯りが復活した」
クッキーマン「操艦コンソールも復帰したみたいや」
スヨン「被害状況は?」
クッキーマン「装甲板が焦げただけらしい」
宇宙刑事「ケチって核弾頭やなく通常火薬を使うたみたいやな。おかげで助かったで」
ユナ「なんや、追っ手の奴ら、スタコラ退散して行くで」
宇宙刑事「えらい潔いなぁ。銀河連邦にチクられたら種族的な危機やゆうこと、いくらパボでも判ってるはずやのに」
声「(ふらふら)う〜ん…もおちょっと静かに出来へんのかいな。すっかり眼ぇ醒めてもうたやんか」
全員「(振り返り)…!」
声の主「なんや、なんや? お化けでも見たような顔してからに」
ユナ「だ、誰?」
ジェシカ「アバター?」
声の主「オタマの食い過ぎで脳に寄生虫でも回ったんか? リーダーの顔を見忘れるとは」
全員「テ、テ、テヨン?」
テヨン「他に誰がおるゆうねん」
スヨン「そ、そやかて、その身体…ウチよりずっと背ぇ高いやん」
ソヒョン「手足も長いし小顔やし…12頭身くらいやで」
ユナ「確かによお見たらテヨンねえやけど、えらい美人になったな」
ジェシカ「声もウチよりキレイで甘い…」
宇宙刑事「ああ、そうやった。彼女の全身を修理するのに時間なかったから、天使族のパーツをだいぶ使い回したんやった」
クッキーマン「そ、それで天使族みたいな姿に…(ポー)」
ジェシカ「見とれてる、見とれてる」
ソヒョン「にいさん、結局は誰でもええねんな」
クッキーマン「し、失礼なことゆうな。ワシは昔からテヨン一筋や」
テヨン「ウソつけ(長身ネリチャギ!)」
ドゲシ!
クッキーマン「きゅうう」
スヨン「おお、その辺は確かに小鬼隊長や」
テヨン「ウチの数少ない欠点が思わぬ形で解消されたわ。ふっふっふ、こうなったらもお無敵!
右頬のホクロがなくなったのはちょっと残念やけど、それ以外はまさに宇宙最高リーダーにふさわしい身体になったで!」
宇宙刑事「水を差すようやけど、天使族は所詮使役動物。フラワーロック星人にとっては牛か馬みたいなもんやで」
ユナ「あっはっっは! そうやったな」
ジェシカ「やーいやーい、牛!」
テヨン「おお、牛で結構や。見て、このホルスタインなライン(ボインボイン)。一度でええから胸が重くて肩こりがするゆう体験をしてみたかったんや」
宇宙刑事「残念やけど、艦内の人工重力は奴らの母星に合わせて0.5Gに抑えてあるから、肩こりはないと思うで」
テヨン「ちぇっ」
スヨン「そんなことより、状況はどおやねん。他の追っ手はないんか?」
クッキーマン「大丈夫みたいやな。ちゅうか、もお月軌道を越えたで」
宇宙刑事「よーし、そんならいよいよ超光速航行に移行しよう。虚数空間エンジン、点火や!」
クッキーマン「虚数空間エンジン、点火!(ぽち)」
ヒューー ヒィーーーーン キィイイイイイイン!
クッキーマン「虚数空間エンジン、エネルギー充填120%!」
宇宙刑事「虚数空間、突入!」
クッキーマン「虚数空間、突入します!」
パァアアアアッ!
ジェシカ「わぁっ!」
ソヒョン「わ、スターボウが…あ、消えた」
宇宙刑事「光速を突破した証拠や。このまま加速を続けて、2〜3週間で目的地に着く」
テヨン「いっこ訊きたいんやけど、虚数空間てなに?」
宇宙刑事「時空構造が実時間やなく虚数時間になっとる空間や。そこを通過することで、ワシらは通常時空の物理に支配されることなく移動することが出来るん。
虚数時間はスティーブン・ホーキング教授らが提唱しているけど、時間の計算を複素数にまで拡張したもので、
数直線上でしか理解できなかった時間が、これまでと直交する新たな次元を持つことになる。
ゆうて見れば、ワシらは時空の複素平面上を好きなだけ移動した後、数直線上の現実世界へ降下することで、見た目上光速を越えて空間を移動することが可能になる訳や」
テヨン「(ぽん)なるほど!」
ジェシカ「わ、わかったんか、今の説明?」
テヨン「つまり、おなじみのワープゆうことやな」
宇宙刑事「(どて)全然違う!」
ポヨヨン、ポヨヨン…
クッキーマン「前方…いや、前方っぽい、未来っぽい時空に巨大質量出現!」
宇宙刑事「わ、しもた。奴らの母艦や。虚数空間で待ち構えておったんか」
ジェシカ「でかいなぁ。ガンド・ロワよりでかいで(見たことないけど)」
ソヒョン「尖塔があちこちから突き出して、まるで白色彗星帝国やで」
ジェシカ「今度はそっちかよ(がく)。せっかく合わせてやったのに」
ソヒョン「とにかくもの凄い数の砲門や。予算を気にしたみみっちい攻撃して来たとしても、まず勝ち目はないで」
スヨン「虚数空間で攻撃とか出来るん?」
宇宙刑事「虚数深度が同じなら問題ない。こっちは連中の船なんやから、手の内はお見通し。簡単に深度を合わせて来るやろ」
ユナ「やばいやんか」
宇宙刑事「母艦に乗っとる総司令は、オリオン腕のマッカーサーゆう異名を持つほどむちゃくちゃな奴やねん。きっと予算なんか度外視して攻撃してくるで」
ジェシカ「そういやマッカーサーは”朝鮮半島に核を落とせ”ゆうた軍人やったな」
ソヒョン「ついに惑星破壊砲が発射されるのか?」
テヨン「ウチに任せえ!」
全員「え?」
宇宙刑事「あ、そうか。自分の身体は…」
テヨン「天使族とは構造が違うゆうんで、ウチの神経系は有機体やなく機械に置き換えられてる。
この鋼化神経系は光速で情報伝達出来る上に、宇宙船の頭脳に直結して操船と武器管制を同時に行うことが出来るんや」
ソヒョン「ハ、『ハードワイヤード』…! また、懐かしい…」
テヨン「所詮『人形使い』に過ぎん奴らの反応速度で、神と化したテヨン様に敵うはずがない!」
ソヒョン「(ぼそ)この場合の『人形使い』は士郎正宗版ではなく、ロバート・A・ハインライン版ですよ」
宇宙刑事「それはそうやが、火力も防御力も圧倒的に違うで」
テヨン「奴らと正面切ってやり合う気はないわ。要するに攻撃をすり抜けて、向こう側に行ければええんやろ?」
宇宙刑事「それにしたって、簡単なことやないど」
テヨン「なら他に手があるんか? こいつ(クッキーマン)やこいつ(ソヒョン)に任せられるんか?」
宇宙刑事「それは…」
クッキーマン/ソヒョン「総てねえさんにお任せします(へこへこ)」
テヨン「ほんなら決まりや。全員後部座席に着いて、シートベルト着用!」
全員「(ばたばた)はーい」
テヨン「当機はこれより超マニューバモードに移行します。爆散の可能性も高いので、遺言状の作成などはお早めにお願いします」
スヨン「もうベルトで固定したので指一本動かせません」
テヨン「なら生き延びることを祈っておくんやな。さぁ、ボシンタン1号、戦闘開始!」
クッキーマン「そのネーミングはやめろ」
テヨン「そうや、日本で出す予定やった新曲かけようっと(ぽち)。宇宙戦に相応しいテーマに乗って、華麗に戦うんや!」
♪今 あなたの声が聞こえる 「ここにおいで」と
淋しさに 負けそうな わたしに…
(『愛、おぼえてますか』 作詞:安井かずみ/作曲:加藤和彦)
天使族総司令「なに、まっすぐこっちに突っ込んでくるやと?」
天使族参謀「へえ。ブリッジのあるこの尖塔をかすめて、後方へ逃れるつもりかと」
天使族総司令「ふん、予算を気にしてたいした攻撃をして来んとでも思うたか」
天使族参謀「舐められたもんですね」
天使族総司令「ちょっとむかついたで。一発5000億ウォンの対艦ミサイルをぶっ放せ!」
天使族参謀「へえ。それで何発ほど?」
天使族総司令「5発! …いや、2発でええか」
天使族参謀「(がく)了解。しめて1兆ウォンのミサイル発射!」
天使族総司令「ああ、勿体ない」
ソヒョン「敵ミサイル2機接近。距離2万」
テヨン「ウチは艦の感覚器官と直結しとる。いちいちゆわんでもええ」
ソヒョン「読者のために説明しとるんや」
ジェシカ「大体ト書きのないこのスタイルでSFなんか始めるから説明台詞が多くなってあかんわ」
ソヒョン「距離12000、わ、分裂した。敵弾頭、推定6000発」
テヨン「くっ(グン)…」
ビューン!
クッキーマン「ぐえー」
ビューン ビューン
宇宙刑事「あかん、そんなにGかけたら、ワシの戦闘強化服が割れる!」
ジェシカ「えらい柔い強化服やな」
宇宙刑事「そら、発泡スチロール製やからな」
ジェシカ「あんたら宇宙人て、みんな貧乏なんちゃうか?」
スヨン「あかん、避け切れん!」
テヨン「わざと引きつけたんや。それ、迎撃ポッド放出!」
ドガガーン!
ソヒョン「(ガクガクガク)すすす凄い、てて敵弾が半分にににに」
テヨン「みみ見たか、この頭脳プレー!」
クッキーマン「至近距離過ぎるやろ。おしっこちびったわ」
ソヒョン「残り半数、追って来る!」
テヨン「丁度ええ、これは奴らに返してやろう(グイ)」
グリーン ドヒューン!
♪今 あなたの姿が見える 歩いてくる
目を閉じて 待っている わたしに
天使族ナビゲーター「敵艦、真っ直ぐブリッジに向かってきます!」
天使族総司令「なにー?」
天使族ナビゲーター「その背後から、小型ミサイル3200機が追尾しています」
天使族総司令「くそー。撃て、ブリッジに近づけさせんな!」
天使族参謀「一発500万ウォンの対艦砲と一発300万ウォンのビーム砲、どっちにします?」
天使族総司令「一発700ウォンのグレープショット(鉄球)を敵艦前方に放出。蟻の這い出る隙間もないほどバラ撒くんや。
それにしても、なんやねん、連中のこの歌は…。やる気なくなるなぁ」
ソヒョン「前方にソフトボール大の小型質量弾多数出現。投射半径100キロ以上!」
宇宙刑事「あかん、マキビシや。そこに突っ込んだら相対速度で蜂の巣になるど」
テヨン「もう間に合わん。このまま突っ込む」
全員「うひゃー!」
天使族ナビゲーター「敵艦、マキビシの弾幕に突っ込みます!」
天使族総司令「ひゃっほー、取った!(るんるん)」
天使族参謀「いや、これは…」
天使族ナビゲーター「敵艦、弾幕をすり抜けました!」
天使族総司令「げえ」
天使族参謀「ミサイルでマキビシを撃って、狭い隙間を抜けたんか…、神業や」
天使族ナビゲーター「追尾していた小型ミサイルが次々と弾幕に接触、爆発しています」
♪昨日まで 涙でくもってた
心は 今…
テヨン「がっはっは! これが銀河番長テヨン様の実力や」
ユナ「いつから銀河番長になったんや」
テヨン「おかげでミサイル撃ち尽くしてもうたけど」
クッキーマン「えー? この先どうするんや?」
天使族ナビゲーター「小型ミサイル、全弾消失! 敵艦、進路変わらず」
天使族総司令「くそー、こっちの武器で迎撃するとは…」
天使族参謀「奴らを侮ってましたな」
天使族総司令「こうなったら、もおケチなことは言わん。ワシかてオリオン腕の狂犬とまで言われた男や。狂犬の生き様、見せてやる!
空間破壊砲”ディスラプター”、発射準備!」
天使族参謀「ひえーー!」
スヨン「あ、ブリッジの真下が開くで」
ソヒョン「あれが惑星破壊砲…?」
宇宙刑事「違う、あ、あれは、空間破壊砲”ディスラプター”。惑星破壊砲の何倍もやばい奴や。経費も国家予算10年分やで」
スヨン「出たー!」
テヨン「向こうが撃つ前にブリッジを掠めて後方へ出る」
宇宙刑事「無理や。例え直撃を逃れても、”ディスラプター”の衝撃は時空を激震させる。この艦程度じゃバラバラに分解されるで」
ユナ「あかんがな」
テヨン「ちゅうてももお逃げようがない」
ソヒョン「敵艦まで距離1000を切った!」
♪おぼえていますか 目と目があった時を
おぼえていますか 手と手が触れあった時
それは初めての 愛の旅立ちでした
I Love You So…
天使族ナビゲーター「”ディスラプター”砲門全解放、エネルギー充填80%。全艦対ショック防御」
天使族参謀「逃げる気配がありまへんね。真っ直ぐこっちへ突っ込んで来ます」
天使族ナビゲーター「奴ら、ミサイルは撃ち果たしているはずですが」
天使族参謀「こっちが撃つ前に、後方に逃れようゆう気かな?」
天使族総司令「うふふ、おパボさん。1光年以内におったら、どこへ逃げても同じなのに(うきうき)」
天使族ナビゲーター「エネルギー充填100%!」
天使族総司令「ワシが撃つ。トリガーをよこせ」
ソヒョン「距離700、500、400…」
クッキーマン「ひー(じょじょじょじょー)」
ジェシカ「わ、またかよ。あとで自分で掃除せえよ」
スヨン「あとがあったらな」
テヨン「死んでたまるか! でーい!」
天使族ナビゲーター「敵艦まで距離200! エネルギー充填135%!」
天使族総司令「うわははは、死ねーい! ”ディスラプター”、発…」
天使族ナビゲーター「あ、敵艦急速反転、ブリッジ上方へ抜けます」
天使族総司令「今更遅いわ!」
天使族参謀「いや、あの影は…!」
天使族ナビゲーター「敵艦の影から小型ミサイル! どうやら1機だけ追尾を続けていたようです!」
天使族総司令「なにーっ!」
ドッカーン!! グラグラ!
天使族ナビゲーター「ミサイル、”ディスラプター”砲門から艦内を直撃。”ディスラプター”の動力機関、暴走します!」
天使族総司令「あかん、全動力をカット! 暴走を食い止めるんや!」
天使族ナビゲーター「はは!(ぽちぽちぽち)」
天使族参謀「や、やられた…(呆然)。これではもう追うことも出来へん」
天使族司令「ええい、むかつく。この曲とめろや、バーカ!」
全員「ひゃっほーい!(歓喜)」
ソヒョン「凄い、テヨンねえ、天才!」
テヨン「はっはっは、切り札は最後までとっておくもんや」
ジェシカ「その台詞、いつか、ウチがゆうたような気がする」
宇宙刑事「ようやった。これで敵はもう動きがとれんやろう。地球の平和は守られたで」
テヨン「自分が地球の平和てゆうなよ。宇宙人のくせに」
宇宙刑事「いやいや、自分らのバイタリティは凄いで。いずれ人類が銀河連邦に加入したら、ええ兵隊の産地になる。地球は銀河全体の宝やで」
ソヒョン「ウチら、連邦に加入出来るの?」
宇宙刑事「あと何百年かして、自力で恒星間航行が出来るようになったらな。そやけど焦らんでええ、アンドロメダ銀河が攻めて来て戦争になるのは2000年以上先の話やさかい」
スヨン「はぁ? そんな未来のこと心配して、フラワーロックの奴ら地球乗っ取りを企てよったんかいな」
宇宙刑事「それが宇宙的規模ゆう奴や。1000億の敵と戦う準備するには短いくらいやで」
ジェシカ「なんか気が遠くなってきたわ」
宇宙刑事「まぁ、考えようによっては、2000年先の子孫にまで威張れるだけの活躍をしたゆうことや」
テヨン「そうか、そう思えば、みんなの犠牲も無駄やなかったのかもな」
宇宙刑事「無駄なもんか、未来永劫に渡って自慢せえ。さぁ、グズグズしとらんと、目的地に向かって一直線や!」
全員「おーっ!」
♪もう ひとりぼっちじゃない あなたがいるから
もう ひとりぼっちじゃない あなたがいるから
………
……
…
ネットニュース記事:『暴かれる陰謀』
昨日、天使族の最後のひとりが円盤に乗り込み、上空へ去って行った。これで天使族は地球から完全に撤退したことになる。
人類初の異星人との接近遭遇は、当初友好な関係を築けると期待されたが、やはりそう甘いものではなかった。
これに関し、彼らの甘言を鵜呑みにした政府や企業に対し厳しい目が向けられているが、異星人が使用していた精神兵器
(聴覚や視覚による人類への強い懐柔効果がある)によるもので、仕方がなかったと弁解する声もある。
一方、アイドルを代表とする芸能人には、この精神兵器はほとんど効果を上げず、そのことがアイドルによる解放につながったのである。
どのように解放が行われたのか、天使族…いやフラワーロック星人の真の目的はなんなのか、これらについては”対天使族解放戦線”のアイドルたちによって次々と明かされつつある。
早晩、総ての真実を読者諸兄にお届けできるものと信じている。
(記者:コ・ウニョク)
ネットニュース記事:『真の英雄』
天使族の陰謀とそれに立ち向かったアイドルグループ少女時代の活躍が知られるにつれ、彼女らは世界的なアイドルとして大ブームを巻き起こしている。
もちろん天使族の精神呪縛から解放されたために、彼女らの歌やダンスを以前のように愛することが出来るようになったわけである。
一度でも彼女らの姿を醜いとか、聴くに堪えないと感じてしまった自らへの贖罪もあるのだろう、
2007年に流行った代表曲『Gee』は世界中で10億枚を売り上げ、彼女らのVTRが流れない国はないというありさまだ。
だが、忘れてはいけない。このメンバーの内、ユリ、ティファニー、ヒョヨン、サニーの姿を見ることはもう出来ない。
彼女らは天使族の陰謀から我々人類を救うため、命を賭して戦ったのである。
世界最高のアイドルである前に、世界最高の英雄、それが少女時代なのだ。人類は永遠に彼女らへの感謝を忘れてはいけない。
(記者:キム・ユジャ)
ネットニュース記事:『オカエリナサイ』
昨日、月軌道の外側に巨大宇宙船が探知され大事件となったが、その宇宙船から国連事務局に無線が入った、とスポークスマンが伝えた。
巨大宇宙船は銀河連邦の巡洋艦であり、内部には事件解決に貢献した少女時代のメンバー5人(とマネージャー)が乗っているとのこと。
全員元気で、明日にも小型艇で地球への帰還を果たす予定らしい。すでに国家を挙げて歓迎の準備が進められている。
大統領が美国訪問を切り上げて、帰国の途についているというニュースも伝わっている。
帰還の暁には、世界中の国々に招かれ、歓迎の嵐となる模様だ。誰もが人類を救った英雄を一目見たいのは当然である。
彼女らがこのまま平和の象徴として生きるのか、それともアイドルとして元の生活に戻るのか、今は予想も出来ないが、
まずはひと言こう告げたい、「おかえりなさい」と。
(記者:チャン・セビョク)
♪パンパーカパーン
観衆「わー、キャー!」
ジェシカ「(ニコニコ)ハ〜イ、ハ〜イ!(振り振り)」
テヨン「もおパレードも飽きたなぁ」
スヨン「腹減った」
クッキーマン「まぁそうゆうな。それに相応しい活躍したんやから」
宇宙刑事「いや、ホンマ感謝しとるで」
テヨン「感謝の印やゆうて、ウチの身体、遺伝子治療ですっかり元の短身に戻しよって。余計なお世話じゃ」
ユナ「あんなアバターみたいなテヨンねえ、気持ち悪いわ。以前のままの方がよっぽど可愛いで」
テヨン「そおか? 可愛いゆわれたら仕方ないけど」
クッキーマン「それにしても、自分、いつまでおる気や? ソヒョンがずっと持って歩いとるから、いろいろ評判になってるんやで」
ソヒョン「こないだも世界一オ○ホールが似合うアイドルNo.1に選ばれたわ(笑)」
クッキーマン「笑い事やない!」
宇宙刑事「そやなぁ。結構ここ楽しいからのんびりしとったけど、いつまでもおるわけにはいかんなぁ」
ユナ「うん。あんたはおもろい奴やけど、ウチらもそろそろ元の生活に戻りたい。またみんなで歌ったり踊ったりして…」
スヨン「でも、元通りて訳にはいかんで。もう5人しかおらんのやから」
ジェシカ「(グス)思い出さすなよ〜(振り振り)」
宇宙刑事「そのことやけどな…ホンマはあかんことやけど、ひとつ提案があるんや」
全員「提案?」
ひょるひゅる ガーン!
ユリ「ひゃー、今のは危なかったな。髪の毛チリチリなってもうたわ。そやけど、逃げてばかりもおられんし…行くでえ!」
ガガガガガガ
ユリ「あははは、こんだけ近いと向こうのパイロットがびっくりしてるのまでよお見えるわ。うりゃうりゃ!
…みんな、ウチ、みんなと一緒で…少女時代でホンマ幸せやったわ…」
ドカーーーン!
ユリ「わ、勝手にヘリが爆発した!」
テヨン「勝手てなんやねん。ウチがこのロケット砲で撃ち落としたんや」
ユリ「テヨンねえ! 自分、戦車に乗って先に行ったんじゃ…」
スヨン「ああ、行ったで。銀河の中心まで行ってきたわ」
ユリ「はぁ?」
テヨン「いろいろあってな、オ○ホールが連邦に内緒でタイムマシン貸してくれたんや」
ユリ「タイムマシンはTENGA式?」
テヨン「どうゆう聞き間違いや、いいたいだけやろ?」
ユリ「なんか知らんけど、ウチを助けに来てくれたんやな」
テヨン「そらそうや、ウチら9人そろっての少女時代やで。なのにひとりだけ抜け駆けしよって、このパボ(コツン)」
ユリ「す、すんまへん。みんなを助けたかったもんで、つい」
テヨン「まぁええ。自分を救出できてよかった(グス)…さぁ、還ろうで、未来に!」
ソヒョン「主砲撃ちます(HUDの照準、めっちゃカッコええわ)…発射!」
どん! バガーン!
ティパニ「キャーッ!(ごろんごろん)」
ドゴゴゴゴーン
…
ティパニ「…ん?」
ユナ「大丈夫か? 危うく天井の下敷きになるところやったで」
ティパニ「ウチ、戦車から落ちて…上から天井が…あれ? なんで自分がここにおるの?」
ユナ「天井が落ちてくる前に自分を引っ張り出したんや。相変わらずよお転けるし鈍くさいなぁ(グス)」
ティパニ「(ふん)鈍くさぁて悪かったな。まぁ自分の怪力のおかげで助かったわ…ちょっと何で抱きついてくるん? ユナ…自分泣いとるの?」
ユナ「良かった、良かったな…(おおきに、オ○ホールのにいちゃん)」
ドカカカカ
ヒョヨン「踊れへんのなら、せめてみんなの役に立って死にたいもんなぁ。ああ、朦朧として来た…血ぃ流しすぎたかなあ」
天使族兵士「敵の攻撃が弱まりました」
天使族隊長「よし、位相砲用意、撃てーっ!」
ぱんぱん! ぱんぱんぱん!
天使族「(ぴた)」
…
ヒョヨン「あれ、敵の砲撃がやんだ? …どないしたんやろ?」
ギィ、パカ
スヨン「約束通り助けに来たで!」
ヒョヨン「ス、スヨン。自分、なにウロウロしとるねん。ウチが残った意味ないやん」
スヨン「なにを英雄気取りで(グス)。この辺の敵はみんな無力化した。さ、戦車から出え。還るで」
ヒョヨン「還る? …それがウチの脚、挟まれて潰れてもうたんや。もお歩けへんし踊れへん(えーん)」
ソヒョン「どれどれ(ごそごそ)、なんや、つま先が挟まっとるだけやないか、大げさな」
ヒョヨン「え?」
スヨン「うん、これならすぐ抜ける。チュヒョン、引っ張れや!」
ソヒョン「ホイサ(ぐっ)」
ヒョヨン「イテテテ…、もっと丁寧に(すぽーん)…あ、抜けた」
ソヒョン「ほら、被害は靴だけや」
ヒョヨン「ありゃまぁ」
スヨン「この程度で死のうなんて、大げさな。どんだけ心配かけたらええねん、このドアホ(グスングスン)」
ヒョヨン「も、申し訳ない。…ちゅうか、命をかけて残ったつもりが、なんで怒られるんや?」
スヨン「うえーん!」
ソヒョン「これにて一件落着、あとはソニねえだけやな」
テヨン「ソニー!」
どーん!
ソニ「わーっ(くるくる)」
ビターン!
ソニ「いててて、な、何するねん」
ジェシカ「文句ゆうな。ウチが突き飛ばさへんかったら、自分瓦礫の下敷きやったで」
ソニ「ジェシカ…? ここは?」
ジェシカ「ウチが稽古をサボるときに使うとった、階段下の納戸や。瓦礫に敷かれる寸前に、自分をこの部屋に押し込んだんや」
クッキーマン「(ごほごほ)こっちもどうやら無事なようや」
ソニ「クッキーマンも…て、なんでルナまで助けるねん?」
クッキーマン「ルナかて仲間やないか」
ルナ「くっ…仲間なもんか。ウチはもお少女時代の下に見られて生きるのに飽き飽きしたんじゃ。少女時代全員抹殺して、ウチがSMで一番になるんや」
ジェシカ「ウチらおらんようになっても、自分がSM一になるのは無理や」
ルナ「なんでや?」
ジェシカ「だってスジョンがおるもん(るん)」
ルナ「こ、このシスコンめ!」
クッキーマン「まぁまぁ。そやけどf(x)ではルナが一番可愛い、ゆうお人もあるんやで」
全員「えー?」
ルナ「なんやそのリアクション? …で、誰その人?」
クッキーマン「作者や。『関西ソニョシデ』の後は自分を主演に『太股太閤記』を書こう思うてるらしいで。そやからこんなことで悪ぶっとらんと、もうしばらく大人しくしとき」
ジェシカ「そうやで。いずれアイドルみんなで協力して世界を救わなあかんようになるよって」
ソニ「アイドルが世界を救う?」
クッキーマン「そうや。話せば長い長い物語になるけど…」
………
……
…
ソニ「わー、どきどきして来た。まるでデビューステージみたいや」
ティパニ「9人そろってステージ立つの久しぶりやもんな」
クッキーマン「また全員揃うてなによりや(うるうる)。さぁ、世界中のペンに自分らの最高のパフォーマンス見せてやれや」
テヨン「うん。ほないくで、みんな!」
全員「おーっ!」
ててててて
観客「わー! キャー! 最高!」
クッキーマン「うんうん、これでええんや。奴らは今やマライアやガガですら鼻くそと思える人気モンになった。
スマンのアホもJYPもYGも秋元もみんな死んでもうたから、これからはワシがクッキーマン・エンターテインメントを作って業界のドンになったるで。
少女時代もKARAもIUもAKBも全部ワシとこのタレントになるんや! 世間はワシを指してこうゆうやろう、『どてらい奴』と!」
スマン「アホて誰のことや?」
JYP「ワシのことも呼び捨てにしよったな」
クッキーマン「…!(ヒー) お、お、お化け…(ガタガタ)」
スマン「お化けの方が良かったかも知れんぞ(ニタリ)」
JYP「生皮剥がれる直前にJOOが来て助けてくれたんや。ワシの皮剥げゆうたんもJOOやと思うたけど、よおわからん」
スマン「ワシもビクちゃんやルナに助けて貰うたんや」
クッキーマン「くっそー、オ○ホールの奴、奴らにもタイムマシン貸しよったんか」
スマン「なにブツブツゆうとるんや。どーもワシらがおらん間に良からぬことを考えとったみたいやな。これからたっぷり話を聞いてやる」
JYP「YGも秋元もつんくも呼んでるからな。楽しみにしとけよ(ニタリ)」
クッキーマン「ひぃいいい、助けてー、宇宙刑事!」
※ラグランジュ…ジョゼフ=ルイ・ラグランジュ(1736年〜1813年)。ラ・フランスではない。フランス人とイタリア人の混血で、主にフランスで活躍した数学者。
この時代のフランス数学界は実利主義的で、ドイツのように純粋数学を追い求める風潮はなかった。
ラグランジュが行った研究も物理学と大いに関係ある領域だったが、その過程で解析力学を創造した。
これは三体問題、例えば太陽−地球−月と言った3つの天体による複雑な運動を理解するのに非常に適している。
ラグランジュ点の発見もその成果だが、L1〜3はオイラーによって見つけられ(オイラーの直線解)、ラグランジュが発見したのはL4〜5(トロヤ点)である。
※超光速航行…SFにおける超光速航行はいろいろある。
一番の力業はE.E.スミスの『宇宙のスカイラーク』によるもので、「アインシュタインの相対性理論が正しいなんて誰にも判らないじゃないか!」、
つまり光の速度を超えられないなんてまだ判っていないよ、と言うもので、通常空間を物理的推進力のみで超光速航行した。人類が音速を超える20年も前の話である。
もちろんアインシュタインは正しく、その後通常空間を超光速でぶっ飛ばすのはタブーになった。
一番メジャーな超光速航行はワープである。空間を紙を折り曲げるように歪ませ、A点からB点まで跳躍してしまうのである。リープ(跳躍)と言っているのも同じもの。
これはブラックホールがホワイトホールに繋がっている可能性がある、という物理学的援護射撃もあり、大流行した。
ただし便利すぎるために、特定のポイントから特定のポイントまでしか跳躍できない「門」の概念を与えたり、天体などの大質量の近くでは使用できないなどの制限を設けた作品が多い。
作者の好きなワープ航法はヴァーナー・ヴィンジの『遠き神々の炎』に出てくる、マシンガン・ワープ(1729命名)だ。
これは一秒間に100回程度数光秒という単位でワープを繰り返し、小刻みに進んでいくというもの。
ワープに必要な時間はほとんどゼロなために、ワープ航行中宇宙船はずっと通常空間にいるのと同じことになる。さらに、この宇宙船は空間に対して加速していない。
するとどうなるか。普通に窓を通して外が見えるし、外の星々はドップラー遷移することなく後方へ過ぎ去っていく。
完全にスタートレックのような宇宙旅行が出来るのだ。これは美しい考え方だった。
もうひとつの超光速航行の代表格は亜空間航法である。平行宇宙航法と言っても良い。
我々の住む宇宙とは別の物理法則(物体の移動が光の速度に制限されない)が支配する空間に移動して、そこを超光速でぶっ飛ばす。
一瞬で距離をなくしてしまうワープと違うのは、何日も何ヶ月も亜空間航行が続くと言うことで、亜空間で敵と遭遇すると、そこで戦闘になったりする。
この航法の代表格は、最近では『星界の紋章』シリーズの平面宇宙航法だろう。さまざまな納得できる制約があり、そこでの戦闘もリアル感がある。
今回作者がでっち上げた虚数空間航法もこの部類に入るが、面倒なので戦闘に関していちいち制約を設けなかった。
現実に超光速が可能かと言えば、不可能ではないと思う(そう考えないと夢がない)。ただし因果律を越える結果になるので、非常に制約の多い、扱いの難しいものになる気がする。
現実でも光速を越える事象は見つかっているが、因果律の問題を解決出来ないので、結果として光速を越えた意味がなくなっている。
個人的のは光速を越えないアーサー.C.クラークのような堅い作品が好きだ。
※スターボウ…星虹。宇宙船が光の速度に近づいていくと、相対性理論により遠ざかる星まで前方に回り込んで見えると予測されている。
天の総ての光が前方に同心円状に集まってくるのだ。
さらに上の項でも少し触れているが、光のドップラー効果によって、近づく星は青方に、遠ざかる星は赤方に変移して見える。
まるで進行方向に大きな星の虹が出来たように観測されるはずだ。これを星虹といい、あまりにロマンチックなので、多くの作品に取り上げられている。
ただし、宇宙船が光の速度に近づきすぎると、変移は可視領域を外れ、紫外線や赤外線となるので注意。
ソヒョンの台詞は、円盤がもの凄い速度で加速したため一瞬星虹が見えたが、すぐ超光速へ移行して見えなくなったと言うこと。
※『ハードワイヤード』…ウォルター・ジョン・ウィリアムズ作のSF小説。世界一わかりやすいサイバーパンク小説と言われている。
地球政府が軌道上の企業国家に敗北し、制空権を完全に支配された近未来。
かつての戦闘機乗りである主人公は、全身に鋼化神経を張り巡らせ(ハードワイヤード)、神経直結した装甲ホバーを操り、自由を取り戻すべく戦う。
ただ、主人公よりヒロインの方が全然印象が強い。
※『人形使い』…巨匠ロバート.A.ハインラインによる侵略SFの古典的名作で多くの小説や映画などに影響を与えている。
謎の円盤から降りてきたのは、人類が初めて遭遇する異星人。しかし、奴らは人間の身体に寄生し、思いのままに操る人形つかいだったのだ。
ナメクジのような姿の異星人は、次々に人間に取り憑き(背中に張り付く)、なりすまし、知らぬ間に侵略を開始していた。
主人公サムは美人捜査官のメアリと共に、異星人から人間を守るべく、ハードな戦いに(嫌々)身を投じるのであった。
な、なんじゃこの表紙は?
※ディスラプター…エドモンド・ハミルトンの古典SF『スターキング』(1947年/カン・ホドンが司会するバラエティ番組ではない)に登場する史上最強の兵器。
謎の光線を発射し、照射した物体のみならず、その周囲の空間そのものを半径数光年の範囲で消失させる。
消された空間は無になるため、周囲の空間が隙間を埋めようとして宇宙全体がぐっちゃぐちゃになる。
撃った本人が「二度と使いたくない」と思うほどの威力を持っているが、その作動原理については一切触れられていない。
「宇宙の破壊者」の異名をとるハミルトンらしい無茶苦茶な兵器である。
※「戦争になるのは2000年以上先」…『ハードワイアード』を書いたウォルター・ジョン・ウィリアムズの処女長編『進化の使者』では、
2万年先に起こるであろう戦争のために兵士をスカウトしようと画策する工作員の姿が描かれている。
このくだらないオチは大好きだったなぁ。
※オカエリナサイ…出来れば”イ”の文字は左右を反転させたかったな。