第793話 そに散歩 〜フィリピン編〜(その5)
03:バゴ(承前)
♪ち~んこ~ん
ソニ「ん?」
校長「小学生の授業が終わりましたね。下校時間です」
ソニ「なるほど。そんでこんな昼間に家におってもやることないから同級生とエッチする訳やな」
ウェンディ「小学生やっちゅうとるでしょ(怒)」
校長「そおや、せっかくバゴにいらしてくれたんやから、庶民の暮らしを見てみまへんか?」
女教師「それはええ。ウチが担任しとる児童の家、案内しますわ」
校長「カミエラの家がええでしょう。一番平均的やから」
ソニ「映らんテレビが飾ってある家に興味ないけどな」
ウェンディ「そおでっか? ウチは行ってみたいですわ。そやけど突然押しかけて迷惑やおまへんか?」
女教師「問題ありまへん。Red Velvetが来たゆうたら末代までの栄誉です。断るはずは、いえ、ウチが断らせまへん!」
ソニ「有無を言わせずかい!」
校長「この辺りでは警官と先生は絶対的存在ですよって(へらへら)」
ソニ「うーむ、30年前の韓国みたいやな(呆)」
ナレーション:そうこうする内にアイリーンさんの充電も終わり、3人は男の先生が運転する車に乗って生徒の家を目指します。
ごとごとごと…
ソニ「やっぱクルマは男が運転するもんなんやね」
女教師「運転免許を持っとる女性はまだまだ少ないのです」
アイリーン「真の近代化までは遠い道のりですね」
女教師「そやけど、あなた方がたくさん寄付してくれれば、すぐにでも追いつきますよ」
ソニ「そればっかやな」
ウェンディ「すごい一直線の道ですね。起伏の多い韓国の町ではこんなストレートな道路はありまへんよ」
ソニ「その代わり相変わらず信号ないし、町を外れたら舗装もしてへんけどな」
ウェンディ「これだけ見通しよくて交通量少なかったら、信号いらんでしょ」
男教師「おっと(ぐい)」
うきょきょきょ
ソニ「わぁっ(ごろごろ)」
ウェンディ「ど、どないしました?」
女教師「ニワトリが飛び出してきました」
ウェンディ「ニワトリ?」
女教師「この辺では多くの家庭がニワトリを放し飼いにしとるんです」
ソニ「道路まで出てくるんやったら、隣の家のニワトリと混ざってまうやろ」
女教師「混ざっても誰も気にしまへん」
ソニ「大らかやなぁ。あちこちで道幅の半分まで米ひろげて乾燥させとるし」
ウェンディ「都会とは時間の流れがちゃうよおな気がしますね」
ごとごと…
ごとごとごと…
アイリーン「結構な距離ですね。もお4kmくらい走ってますけど」
女教師「もうすぐ着きますわ」
ウェンディ「これから行く家の児童は、この距離をどおやって通ってるんでっか?」
女教師「歩いてます」
ウェンディ「ええっ? 毎日? 行きも帰りも?」
女教師「この辺りでは普通ですわ」
ウェンディ「いくつの子でっか?」
女教師「3年生やから8歳か9歳ですかね」
ウェンディ「ぴゃー」
ソニ「さすが世界一貧しい町」
アイリーン「妙なところで感心しないでくださいよ」
ソニ「それだけ歩いとったら、年頃になる頃には目黒の日出高校の女生徒くらいふくらはぎが太くなるやろうな」
アイリーン「絶対関係ないっすよ」
ソニ「あるいはオマイゴルのマンネみたいな足とゆうてもええ」
アイリーン「やめなさいって。ペンに呪われますで」
キキーッ
ソニ「お、着いたんか?」
女教師「ここから先はクルマが入れませんので歩いていただきます」
ソニ「(かくん)まだ先なんかいっ」
ウェンディ「おや、目を凝らしたらサトウキビとサトウキビの間に細い道らしきものが」
女教師「ここを入ってしばらく歩くとカミエラの家に着きます」
ソニ「よおなんの目印もないところにきっちり止まれるもんやな(驚)」
女教師「我々は鼻で磁場を感じるコトが出来るのでGPS並に正確なのです」
アイリーン「すごい。この人らは現代では退化したとゆわれる感覚をいまだに保ってる民族なんやわ(感動)」
ソニ「真に受けるなって」
ナレーション:そこで一行はクルマと男性教師を幹線道路に待たせて、細い脇道へ入っていきました。道の両脇には背の高いサトウキビが風にそよいでいます。
ウェンディ「♪ざわわ、ざわわ、ざわわ~」
ソニ「そんな風流なモンやないど。蒸し暑いだけじゃ」
アイリーン「あっ、た~だ細い路地が続いてるだけか思うたら、所々開けて家畜小屋みたいなんがありまっせ」
女教師「あれは家畜小屋やのうてちゃんとした家でおます」
ウェンディ「マジで?」
アイリーン「そ、それは失礼しました」
女教師「だいたい家畜のためにわざわざ小屋なんか建てまへんわ」
ソニ「大らかなんだか貧しいんだか。とにかくウリナラの常識では測れん土地やな(呆)」
きゃあきゃあ、がやがや…
ウェンディ「見て見て、子ども達が家の前で遊んでまっせ」
女教師「そこはよろず商店ですわ。お菓子や食料品、雑貨まで、なんでも売ってるこの町のコンビニです」
ソニ「見栄張んな。こんなショボいコンビニがあるか」
ウェンディ「そやけど、コンビニの前で若者がたむろして遊ぶって言うのはどの国も一緒ですね」
ソニ「大量のニワトリと一緒にたむろってるのはこの辺だけやと思うで」
女教師「やれやれ、着きました。この家ですわ」
アイリーン「家と家の境目がどおなってるのかさっぱり判りまへんね」
ウェンディ「もともと境界なんかないんちゃう?」
ソニ「なるほど。この家も家畜小屋風建築」
女教師「これはニパ・ハットちゅうてスペイン統治以前からの伝統的な家屋です。ニパゆうマングローブで屋根を作るからそおゆわれてますねん」
ウェンディ「こんな素通しで大丈夫ななんでっか?」
女教師「素通しやからこそ、雨風に強いんですわ。それに台風で潰れてもすぐ建て直せるし」
ウェンディ「なるほど。それなりに合理的ですね」
アイリーン「あ、子ども達が笑うてますよ」
女教師「もお帰り着いてたんですね。歓迎しているよおです」
ソニ「すげぇ、クルマ並みに足が速いやないか」
アイリーン「東京オリンピックではフィリピン人が活躍しそおな予感」
女教師「とにかく、中に入ってみましょう。カミエラ、お邪魔するで」
少女「オッポ(どうぞ~)」
とてとてとて
ソニ「お邪魔するゆうても、中と外の区別がほとんどない作りやけどな」
ウェンディ「あきまへんて。…おお、中はほぼ竹で組んでありますね。思ったより涼しい」
アイリーン「やっぱ土地土地に合うた住まいっちゅうモンがあるもんやね」
ナレーション:雨季の冠水対策でしょうか、地面から一段上がった屋内は入ってすぐ居間になっているようで、竹製のテーブルや椅子、機能してるかどうか判りませんがテレビやラジオが配置してあります。キッチンやトイレは家の外に作ってあるようです。
ソニ「決して広いとはゆえんな」
ウェンディ「そらねえさんの20億ウォンもするマンションに比べたら」
ソニ「比べる気はないけど、それにしたって四畳半もないくらいやど」
アイリーン「この家で何人暮らしてはるんでっか?」
女教師「オジイとオバアとオトンとオカアと上の兄はんと下の兄はんと姉はんと妹と上の弟と下の弟やから、んーと、11人でっかね」
ウェンディ「激狭っ(驚)」
ソニ「橋田壽賀子のドラマかっ」
アイリーン「今時『ただいま11人』なんて知ってる人おまへんで(呆) せめて萩尾望都ゆうてくれんと」
女教師「そこのさらに一段上がってる所が寝室ですわ」
ウェンディ「さらに激狭っ!」
ソニ「ここに11人も寝てるんか?」
少女「○×▲◇★〆❤×▽」
女教師「オジイとオバアとちっちゃい子は隣の別宅で寝てるそおです」
ソニ「別宅ゆうたって寝るだけの小屋やろ? まさに家畜あつかい。家畜人ヤプーじゃ」
ウェンディ「今回ねえさんの毒が酷いなぁ(呆)」
アイリーン「いつもなら少女時代の他のメンボが毒吐いて、ねえさんはそれに突っ込み入れる役なんやけど、今回少女時代来てへんから」
ウェンディ「ウチら毒キャラちゃうしね」
アイリーン「そやからって無理矢理毒吐かんでもええ気がするけど」
ソニ「それにしても居間と寝室が直結。しかも激狭。こんな家にはプライベートなんかないやろ」
女教師「そおですねぇ」
ソニ「やったら、両親や若い学生はどこに隠れてエッチしとるんかいな?」
ウェンディ「そればっかですな(呆)」
女教師「エッチは畑でするもんです」
ソニ「(かくん)『西便制』かっ」
くいくい、くいくい
ソニ「ん?」
少女「■★☆○〆」
ソニ「なんやねん?」
女教師「その娘はまだ英語が喋れないんですわ」
ウェンディ「なにか差し出してますね。食べ物?」
少女「スマン、ぷりーず。スマン、ぷりーず」
ソニ「スマンはウチの叔父はんやけど、それがどないしてん?」
女教師「そうやなくて、スマンゆうのはフィリピンのちまきでおやつとして食されてるものです。ココナツミルク味の餅米をバナナの葉に包んで蒸したものですわ」
ソニ「うげっ、不味そお」
女教師「たいがい失礼でんな(怒)」
ウェンディ「せっかくこの子が自分のおやつを差し出してるんですから、いただかないと失礼でっせ」
ソニ「そんな不衛生そおな食いもん、死んでも食わん。ちゅうか食うたら死ぬ」
少女「…(しょんぼり)」
女教師「いたいけな子どもの精一杯の好意を平気で踏みにじる…。鬼や、韓国人は鬼や!」
ウェンディ「いやいやいや、そんなことありまへんて。ウチは喜んでいただかせてもらいます」
アイリーン「ウチも! (むきむき)あら、美味しそお」
ソニ「嘘つけ」
アイリーン「ホンマですって。ココナツミルクの香りがそこはかとなく食欲をそそりますし」
ウェンディ「ほな失礼して。(むんぎゅむんぎゅ)お、意外に上品な味」
アイリーン「(もんぎゅもんぎゅ)そやね、思うたより甘くない。これはマジで美味しい」
少女「…(ニコニコ)」
女教師「カミエラも大好きなRed Velvetに食べて貰って嬉しそおですわ。よかったです」
ソニ「ホンマに美味いんか?」
ウェンディ「ホンマです。これ、気に入りましたわ」
ぐうー
ウェンディ「ん?」
ソニ「そおゆうたら、ウチちょっと小腹空いたかなぁ」
アイリーン「えー? 早よゆうてくれんと。今ねえさんの分までウチが食うたとこでっせ」
ソニ「こ、この! ロボット三等兵のくせに、他人様の分まで腹に入れるとは不届き千万!(激おこ)」
アイリーン「ねえさんが死んでも食わんゆうからやないでっか」
ウェンディ「大人げないなぁ」
少女「きゃらきゃらきゃらきゃら!」
ウェンディ「ほら、子どもにまで指さして笑われてる」
女教師「よおわからんけど、K-Popアイドルがそこまで民度高くないのは理解できたわ(呆)」
※スマンは、筆者が現地の少女の家を訪ねた時、実際にいただいた。ほのかに甘くて不味くはなかったが、温かくも冷たくもなく、ぬくい気温と同じ温度なのでなんか微妙な味だった。でも目の前で食べたら、女の子がすごく嬉しそうな顔をしたのが印象的だった。