関西ソニョシデ学園

過去に生きるK-Popのブログ

第749話 そに散歩 〜日南編〜(その3)




02:城下町 飫肥(承前)




ナレーション:アイリーンの充電が完了するまで、ソニとユナのふたりはおび天屋の裏手を覗いてみることに。そこは町の無料駐車場や観光案内所などパブリックスペースになっています。


ユナ「お、なんやら楽しそおな顔ハメ看板があるな。なんて書いてあるんやろ?」
ソニ「さすがにこれは読めんなぁ。説明させよおにも、歩くウィキペディアは充電中やし」
ユナ「ホンマ、役に立たん奴やで。(くりくり)しめた、電波は弱いが使えん訳じゃなさそおや」
ソニ「(かくん)結局スマホでググってるんかい!」



ユナ「えーと、なになに…タイヘイオドリ。元々は江戸時代の初期に行われていた盆踊りが起源で、侍と町人が一緒に踊るという全国的にも珍しい郷土舞踏ちゅうことや」
ソニ「なーんや。このポーズからしてご当地戦隊ヒーローかと思うたのに」
ユナ「そんな訳ないやろ」
ソニ「こっちはなんて書いてあるん?」




ユナ「どうやら四半的ちゅう弓矢で遊ぶ場所らしい」
ソニ「シハンマト?」
ユナ「この地方に伝わる独自の弓術で、的までの距離や矢の長さ、的の大きさがいろんな単位で4.5に統一してあるのが名前のいわれやとか。レクリエーションとして焼酎を呑みながら興じるのが一般的らしい。ここはその四半的の観光客向け体験教室みたいな場所やな」
ソニ「へぇ。それは面白そお。10射で300円ならそお高くもないし、ちょっとやってみいへんか?」
ユナ「そやな。まだ雨強いし、ポンコツの充電も終わらんから、暇つぶしに入ってみよう」
ソニ「そおこなくちゃ。…あんにょーん!」
四半的の師範「はいはい、よう来っくいやったな」
ソニ「シハンマトやりたいんでっけど」
四半的の師範「おおきんね。そしたらこちらへお座りなさい」
ソニ「座って射つんか。変わってるな(よっこらしょっと)」
四半的の師範「こりゃこりゃ、アグラかいたらでけんばい。正座が基本じ」
ユナ「正座? 苦手やしなんか屈辱的な姿勢やなぁ」
四半的の師範「屈辱とはなんね。そもそも四半的の射形は旧飫肥藩に伝わる日置流弓術の伏射の形を取り入れ、的前正面打起しゆうて、正座による体配を正式なもんとしとるんじ。古来戦場では馬上から弓を引くことも多かった。那須与一ば思い起こせばよかじ。すなはち鞍に座して弓を引く訳で、立って引くだけが弓道ではござらん」
ユナ「馬上でも正座してたん?」
四半的の師範「気持ちは正座(きっぱり)」
ソニ「曲げないなぁ(呆)」
四半的の師範「とにかく、これから引き方を教えてしんぜるから、的に対して90度の向きに正座して、この弓を持って…」
ユナ「はー、そうすると上半身をだいぶねじる形になりますね」
四半的の師範「その辺はアーチェリーかて一緒じゃなかね」
ユナ「そお言われりゃそうか」
四半的の師範「そんで矢をつがえてゆっくり弦を引いて…。矢のつがえ方は一般的な蒙古式ではなくピンチ式ちゅうて摘む様な格好で。…そおそお」
ユナ「お、このつがえ方は『最終兵器 弓』のパク・ヘイルと同じ構え。かっちょええ(ぐねっ)」
四半的の師範「こりゃこりゃ。そげん弦ばねじったらでけんたい」
ユナ「大丈夫、これでちゃんと曲射ちしてみせるから」
四半的の師範「なんば言いよっとね。それじゃ矢がどこに飛んでいくか…」
ユナ「山のよおに構え(ぎりぎりぎり)虎の尾のよおに射ろっ! うりゃっ!」
ぴゅん!
四半的の師範「わぁっ」
ぐにょにょにょにょ〜
ソニ「おおっ、ものすご曲がった!」
ぶすっ
店番のおばちゃん「(OFF)ぴゃーーーーっ!!」
ユナ「なんやなんや? 遠くから悲鳴が」
ソニ「おび天屋の中に飛び込んでいったで」
ユナ「すげー。四間半(8.2m)どころかだいぶ飛んだな」
店番のおばちゃん「(でででっ)こらーっ、危なかじゃなかね。お連れさんに矢の刺さったばい」
ソニ「ええーっ?」
店番のおばちゃん「それも心臓の位置に深々と刺さっとるじ」
四半的の師範「こらーでけん。きゅ、救急車ば、はよ」
ソニ「なんだ、胸か(ほっ)」
四半的の師範「“ほっ”てアンタ(焦)」
ソニ「大丈夫大丈夫、顔に当たらん限りは会社も文句ゆわんし」
店番のおばちゃん「けんどん心臓に刺さっちょるんちゃが。ピクリとも動かなんし」
ユナ「あいつは首から下はブリキの木こりと一緒や。心臓の代わりにハート型の布袋かなんか入れてあるに違いない。気にせんでええ」
ソニ「あとちょっとしたらまた動けるよおなるから」
店番のおばちゃん「はぁー。大陸のお客さんは変わった人どんじゃあ」
ユナ「それより四半的の続きをせねば。ここで練習して、次のア陸大では優勝する!」
ソニ「ア陸大は若者の祭典や。貴様のよおなギャラばかり高騰したロートル、誰が使うか」
ユナ「アイリーンかて出てるやないか」
ソニ「歳は近くても奴の立場はまだ若手。人気は今がピークやし、いろんなテレビに出て不思議はない。
 それより四半的て焼酎呑みながらやるもんやて書いてあったな。おばちゃん、焼酎置いてないの?」
店番のおばちゃん「あんたらには出さんじ。危ないわ」
ソニ「とほほ」


ナレーション:などと地元民に呆れられつつも四半的を楽しんだふたり。そうこうするうちにアイリーンの充電も終わり、一行は飫肥城に向かって歩き始めました。



アイリーン「ご老公さま、これが飫肥城の入り口でございます」
ソニ「誰が白髪アゴヒゲのジジィや」
ユナ「明らかに観光施設として整備されとるな。てことは入場料とるんかいな?」
切符売りのおねえさん「(ぴょん)ご名答〜」
ユナ「わっ」
ソニ「大手門の手前に切符売り場が」
切符売りのおねえさん「ここは豫章館(よしょうかん)と言って旧藩主の伊東家が明治になって移り住んだお屋敷跡なのよ。庭園には喫茶室もあるわよん」
ユナ「いや、今おび天喰うて来たところで」
アイリーン「充電もすましたところで」
切符売りのおねえさん「あらそう? でも見るだけ見て行ったら? この城下町には飫肥城趾や豫章館のほかに飫肥城歴史資料館、松尾の丸、国際交流センター“小村記念館”、商家資料館、旧藩校跡などなどたくさんの史跡や資料館があるから、小さいけど見どころたくさんよ」
ソニ「それ全部入場料とるんすか?」
切符売りのおねえさん「ほとんどね(にっこり)」
ソニ「うげぇ。どーする?」
ユナ「うーん…入るのよしょうかん」
ソニ「(かくん)0点じゃ、ボケ」
切符売りのおねえさん「ここに来た人は大概それ言うわね。中年以上の人が多いけど」
ソニ「わはは、オヤジギャルじゃ」
アイリーン「それもずいぶんと古い言い回しのよおな(呆)」
切符売りのおねえさん「入場料は1ヶ所200円だけど、通行手形ってのがあって、それを買うと610円でいろいろな場所を回れるのよ」
ソニ「フリーパスって奴か」
切符売りのおねえさん「察しがいいわね。4軒以上廻ったら元とれる計算なのね。どーする?」
ユナ「どーしよー?」
ソニ「こんな田舎町の歴史に興味ないし、金も勿体ないし、なにより歩き回ると疲れる。ここはポンコツだけ行かせて、あとでその録画記録を見ることにしよう」
ユナ「そやな。ウチらおび天屋で休憩しとくわ」
アイリーン「いやー、ウチいま内蔵カメラの調子悪くて」
ソニ「マジでポンコツやないかい(呆)」


ナレーション:こらこら、手を抜いてはいけません。茶店でウダウダしてても番組にはなりませんよ。てことでディレクター命令で強制的に通行手形を購入、3人は城下町をさらに散歩することに。


てくてく…
てくてく…



豫章館


ソニ「古っ」
ユナ「ボロッ」



飫肥城


ユナ「階段きつっ」
ソニ「壁しか見えん」



松尾の丸


ソニ「日本式家屋なら釜山で散々見たわ」
ユナ「せめて茶ぁくらい出せや」
アイリーン「文句ばかりゆわない。これも貴重な史跡なんやからありがたく見学しなさいよ」
ユナ「そんな普通のコメントいらねーんだよ。さすがSMEいちおもろないアイドルじゃ」
ソニ「ホンマやで。なんでこんなバラエティに向かない女が人気あるのかさっぱり判らん」
アイリーン「ウチに当たるのやめてんか」
ユナ「そもそも松尾の丸てなんやねん?」
アイリーン「(検索)ここは高位の武家の生活を体感できるよう建てられた屋敷で、全国各地に残る資料を参考に再現されたんやて。100年杉を使った書院造りの御殿で、御座の間、茶室、御寝所、湯殿、台所、御蔵などからなるそうな。そのうち湯殿は、国宝である西本願寺飛雲閣のものを模したこけら葺きの総桧造り。九州で見ることが出来るのはここだけとゆう貴重なものや」
ユナ「ん? 復元やなくて再現? てことはいつ建てられたんや?」
アイリーン「イ・ヒョリ姐さんが生まれた年でんな」
ソニ「全然史跡ちゃうやないか、ボケ!」
ユナ「次いこ、次」




本丸跡


アイリーン「ここに昔は天守閣のあるお城が建ってんたんですな」
ソニ「杉しかないぞ」
アイリーン「“跡”ゆうてますやん。杉はこの地方の名産で、飫肥杉ゆうてかつては造船用として盛んに植えられておったよおです。
 杉木立と緑の絨毯を敷き詰めたよおなこの場所は“癒やしの森”と呼ばれて、近隣住民の散歩コースになってるらしいですわ」
ユア「なんか薄暗くて幽霊出そおやけどな」
アイリーン「今は雨でっから。晴れてれば木漏れ日が差してなかなか美しい場所なんですわ。NHKの朝ドラ『わかば』の舞台になった程やから」
ユナ「えっ? ほなこの町を背景に福山雅治の歌声が流れたってことかいな?」
アイリーン「そおでやんす」



ユナ「うわー、晴れたとき来たかった」
ソニ「ついとらん。自分、雨女とちゃうか?」
アイリーン「ちゃいます。ウチが雨女やったら、すぐサビくうてもおて野外営業なんて出来しまへんよ」
ユナ「サビるんかい(呆)」
ソニ「チタンとかスーパー繊維素材とかハイテク使うてるんやないんか?」
アイリーン「顔以外は大体ブリキ製ですな」
ソニ「(かくん)マジやったんかい。全然メガテクボディちゃうやん」
ユナ「ほな顔は? 自分の値段の9割は顔面代にかかってるんやから、そこだけはハイテク素材なんやろな」
アイリーン「牛革ですわ。最高級カーフスキンを使うてます」
ユナ「(かくん)財布かよ」


ナレーション:そうこうする内に雨も上がり、3人は本丸跡から西側へ周り、少し歩くとそこにはちょっとした川が流れていました。


アイリーン「これが飫肥の町を囲む様に流れる酒谷川ですねん」
ソニ「そんな大きな川やないな」
ユナ「近所の子が川遊びしたり魚捕りしたりするのに丁度ええ感じや」
アイリーン「そうでっけど、これが飫肥城の外堀として機能してまして、戦になると最終防衛線になったよおでっせ。その証拠にかつて行われた2度の城攻めの際には、どっちもこの川の外側で敵を迎え撃ってますさかい」



南西側から飫肥城を見る


ソニ「そんな攻防戦あったの? こんなのんびりしたところで?」
アイリーン「へえ。室町時代から戦国時代にかけて薩摩の島津家と日向の伊東家の間で断続的に小競り合いがあったよおですが、大きな城攻めは2度ですな。最初の戦では島津が、その後の戦では伊東が勝ってこの地を治めることになったそおです」
ユナ「そんな欲しくなるよおな土地には思えんけどなぁ」
アイリーン「当時の人から見たらええ土地やったんでしょうなぁ。特に伊東家のこの土地にかける執念はすごくて、100年以上の長きに渡って争奪戦を続けたそおですわ」
ソニ「うわー、敵に回したくないタイプ。ほな伊東と島津はさぞかし仲悪かったんやろうな」
アイリーン「そう思いがちでっけど、さっきゆうた飫肥西郷の小倉処平ゆう人は西南戦争薩軍に味方してますさかい、実際の所どーなんかWiki程度の資料じゃよお判りまへんわ」
ソニ「なるほど、その辺りがポンコツの限界か」
ユナ「仲悪いたって土地は隣り合ってるんやし、ウリナラと北の関係みたいなもんじゃね?」
ソニ「知らんがな」
ユナ「冷たっ」



武家屋敷通


アイリーン「みなさま、前方をご覧くださぁい。飫肥城のすぐ近くには上級藩士の家が連なっておりまして、いわゆる武家屋敷通を形成しておりま〜す」
ユナ「すっかりバスガイドやな」
アイリーン「この通りには数々の史跡がございますが、その他にもカフェや飫肥杉の木工細工店、土産物店なども揃っております。どうかお時間までごゆるりと散策をお楽しみくださいませ」
ソニ「いや、もお飽きた。次の場所に移動しよう」
ユナ「そやな。こんだけ歩けば撮れ高も充分やろ」
アイリーン「えー? 撮れ高ゆうたって、おび天喰うて弓矢しただけやおまへんか。もっと歴史に触れないと」
ソニ「充分触れたんちゃう?」
アイリーン「いんや、まだまだですわ。例えば伊東家の歴史なんか全然掘り下げてまへんし。飫肥の伊東家ゆうたら、かの天正遣欧少年使節のリーダーで少年サンデーのギャグマンガでもお馴染みの伊東マンショの血筋でおます」
ユナ「全然知らん」
アイリーン「あと、初代藩主伊東祐兵の正室松寿院(虎)は伊東家の再興にも一役買った女傑で、地元では源頼朝の妻北条政子豊臣秀吉の妻北の政所、前田利家の妻芳春院(まつ)、山内一豊の妻見性院と並び称されるお人です。昨今はNHKも『八重の桜』や『おんな城主直虎』みたいに女性を主人公にした大河ドラマを作ってますから、日向市としても松寿院を是非主人公に、と推しているよおです」
ソニ「…」
ユナ「…」
アイリーン「電池切れたんでっか?」
ソニ「寝てるんじゃ、ボケ!」
ユナ「興味ない話ばっかしやがって。貴様こそ電池切れろや」
アイリーン「大丈夫、今回はまだまだ電池持ちまっせ」
ユナ「は? 急にどーした?」
アイリーン「視聴者がWifiやデータローミングをオフにしたりとか、機内モードに切り替えたりとか、電池を長持ちさせる裏技をいろいろ送ってくれましたよって」
ユナ「へー、それは目から鱗。鐘みっつやな」
ソニ「伊東家の食卓かっ!」






※『最終兵器 弓』…