関西ソニョシデ学園

過去に生きるK-Popのブログ

ソニョシデ学園 06

退屈な数学の授業中、小さく丸めた紙切れが飛んできた。
幼なじみのジェシカからの手紙だった。
”アイユは元気?”
アイユは家で飼っている子猫だ。ずっと小さい頃はジェシカもよく家に来て可愛がっていた。
最近、ジェシカはアイユに会っていない。
ずいぶん大きくなって、天井まで一気に駆け上がるようになった。
しなやかな身体を伸ばして、3ステップで駆け上がる姿はとても美しい。
気がつくと僕は、一日の内で、ジェシカのことを考えている時間より、アイユのことを考えている時間が長くなっていた。
でも、そんなこと、とてもジェシカには言えない。
すぐには手紙に返事できないでいた。


ランチタイムの学食で、クラスメートのティファニーが僕の隣に滑るように腰を下ろして来た。
「なに?」
なんにもなくて彼女が僕の隣に座る訳はない。
「なんで手紙に返事しないの?」ティファニーがぼそっと言った。
とたんに僕は震えだした。
「家の猫が可愛いんだ、家の猫が可愛いんだ。ひょっとしたらジェシカよりも」
僕は堰を切ったように、アイユがどれほど魅力的か話し始めた。
ティファニーは手を挙げて制すると、「そんな話をジェシカにしたら、彼女どうなると思う?」
「気を悪くするかも」
「それだけ?」
「猫を捨てて来いって言うかも」
ティファニーはニコッと笑って吐き捨てた。
「あんたバカね」


放課後、ジェシカが家に来てアイユとさんざん遊んでいった。
アイユが3段ブースターで天井まで駆け上がるのを手を叩いて喜んだ。
ジェシカは純粋に猫が好きで、アイユが元気か知りたかっただけなのだ。
僕が悩んだことなんか、何の意味もなかった。
”彼女にとって僕は猫以下だ”
そう思うと、自然に身体が熱くなった。
そんな悦びを与えてくれるジェシカは、やっぱりアイユ以上の存在なのだった。