関西ソニョシデ学園

過去に生きるK-Popのブログ

第17話 テヨンの”風の丘を越えて”

テヨン「コンコン、入りまっせー」
スマン「口で言わんとちゃんとノックせえや。ま、ええけどな。ユー、体調はどない?」
テヨン「すぐにでも北の奴らを皆殺しにできますわ、がはは」
スマン「それは良かった。これから寝る間も無うなるからな」
テヨン「…? なんか、あるんでっか?」
スマン「ユナのドラマが数字あかんねん。知っとるやろ?」
テヨン「まあ、なんとなく」
スマン「ほんでユーに白羽の矢が立ったんや。挿入歌を歌って欲しい、ちゅう話や」
テヨン「ホンマでっか?」
スマン「ユーが歌うと番組の数字が10%前後上がるゆうんは、業界じゃ有名やからな。
  曲は今ユ・ヨンソクが書いとるとこや。来週からスタジオに缶詰やでー」
テヨン「かしこ、かしこまりました、かしこー!
  よっしゃー! いよいよテヨン様の時代が到来したでー!」
スマン「ただし! ユーは充分上手うなったけど、まだ足りんもんがある。この機会にそれを克服するんや。
  それが出来たらソロ活動も考えたる」
テヨン「ウチに足りんもん? …身長以外は思いつかんけど」
スマン「胸も足りんがな。…冗談や。ユーの歌に欠けているもの、それは恨(ハン)や」
テヨン「ハン?」
スマン「そや。恨み、憎しみ、哀しみ、それらの残滓が澱のように鬱積した情念。
  言ってみれば、人生そのものを凝集したようなもので、ワシら朝鮮民族だけが持つ特別な感情や。
  恨は虐げられてきた歴史を持つワシら民族の心を揺さぶる。恨(ハン)のない歌など所詮流行り歌、ホンマモンやない」
テヨン「ははぁ、恨がなかったからおっちゃんは歌手やめたんやな」
スマン「どついたろか、小娘が。…ま、そのとおりやが。
  ユーはワシと違って韓国一の歌手になれる器やねんから、必ず恨を歌に込め、そしていつか恨を超えるんや。ええな?」
テヨン「恨を込め、恨を超える…。そんなことがウチに…」
スマン「ユーなら出来ると信じてるで」
テヨン「かしこ、かしこまりました、かしこー!」
スマン「ズゴッと」


ソヒョン「キャー! やめてテヨンねえ」
ソニ「とにかくその千枚通しを放しいや」
テヨン「離せー、ウチの好きにさせえ!(ジタバタ)」
ティパニ「自分わかっとるんか? そんなんで目え突いたら見えへんようになるんやど」
テヨン「わかっとるわい。なまじ目が見えるからいつまでたってもウチの歌に恨が宿らへんのやあ!
  このままやったら、名曲書いてくれはったヨンソクにいさんに申し訳が立たん。
  誰か薬屋行って硫酸買うて来い、全身に浴びたるー!」 
ジェシカ「なぁなぁ、恨が必要な歌ってパンソリとかトロットやろ?
  いくらヨンソクにいさんの歌が涙もんゆーても、ポップスでそこまでしたら、却ってみんな引くんちゃうか?」
テヨン「…どういう意味や?」
ジェシカ「切ないバラード聴いていっとき涙しても、次の日には笑って暮らしとるのが大抵の人間や。
  それが大衆音楽の役割。消費される宿命にあるんや」
テヨン「…」
ジェシカ「その上でホンマに人の心を揺さぶったら、結果としていつまでも歌われていくようになるんや。
  あんたがいくら命そのものを歌に込めたとしても、それを聴く人に押しつけたらあかん」
テヨン「命を込めた歌が消費される…。悲しいやんけ…(はっ)そうか、それが恨やな!」
がちゃ
ユナ「ただいまー」
テヨン「おー、ユナ! 今ウチな、恨が判ったんや。これであんたのドラマもバッチリやで」
ユナ「なに言うてんの。テヨンねえがいつまでもレコーディングせんから、もう今日でクランクアップしてもーたわ」
テヨン「そ…そうなん?」
ユナ「あーあ、日本でキムタクと共演する言う夢、ますます遠なったなぁ。もうババして寝よ」
テヨン「…やっと掴んだ恨やのに、歌うことも許されないと言うの? でも、それもまたひとつの恨なのね」
ジェシカ「違うと思うなー」






※イム・グォンテク監督に捧ぐ



※映画『風の丘を越えて』に関しては、書き出したら本が一冊出来るほどである。
 だから逆に多くは書かないが、韓国映画の伝統的な題材と手法を普遍的な領域に押し上げた大傑作であることは間違いない。
 またソウルで初めて100万人を越える観客動員を記録した映画で、韓国に今日の映画ブームをもたらした作品とも言える。
 冬ソナもいいけど、こういう作品こそ多くの人に観てもらいたい。



※テヨンは『Gee』と同時期、ドラマ『快刀ホン・ギルドン』(2008年・KBS)の挿入歌『もしも(만약)』をソロで歌い大ヒットさせた。
 2008年上半期第1位、通年でも第2位のカラオケ歌唱曲にあげられている。
     『もしも(만약)』


 続いて、その秋『ベートーベン・ウィルス』(2008年・MBC)の挿入歌『聞こえまっか(들리나요)』を歌い、これもヒットさせた。
 どちらも視聴率上昇の一因になったと分析されて、一躍OSTの女王と呼ばれるようになった。
     『聞こえまっか(들리나요)』



※ユ・ヨンソク…ポップス歌手兼音楽プロデューサー。1988年に男性4人組グループ”青空(パラン・ハヌル)”でデビュー、人気を博した。
 特にバラードには定評がある。
 2008年秋にリリース予定だった少女時代の2集(セカンド・アルバム)をプロデュースしたが、さまざまな事情でお蔵入りとなった。



※恨(ハン)…『風の丘を越えて』でも重要なテーマとなっているハン。
 『恨五百年』なんて歌があるほど古い歴史を持つ朝鮮民族独自の概念だが、今でも彼らの生活の中に息づいている。
 ただ、その思いとか情念そのものは、日本人やユダヤ人やアフリカ系アメリカ人、世界中の人々の中にもあると思う。
 その情念を切り出してハンと名付けたのは朝鮮民族だけだろうけど。
 スマン先生が言うように、さまざまなネガティブな感情が鬱積したものだが、それが朝鮮民族を突き動かすパワーとなっている。
 キム・ジェドンによると「簡単に言えば”心残り”の事です。それが涙や笑い、時には救いにもなる。
 子どもたちには自分と同じ辛い目をして欲しくない。それが私のハンです」 
 心の奥底にある、自分を突き動かす無念な思い。人にはそれぞれ自分なりのハンがある。
 それを意識して生きてきたのが朝鮮民族なのだろう。
 漢字で「恨」と書くから誤解されるけど、決して否定的なだけの思いではないのだ。
 ま、そんな訳でここでのテヨンは、恨を誤解しており、そのためドタバタ騒動を起こしている。